あらすじ
ある日、授業中、先生に当てられて、算数の問題が分からなかったボク。
黙って立っていたら、代わりにボクのパンツが答えてくれた。
それからというもの、ボクのブリーフパンツは、パンツくんとして、しゃべるようになった。
友達があまりいなかったボクは、パンツくんといろいろ話をするのが楽しかった。
パンツくんは物知りで、ボクにいろんなことを教えてくれたんだ。
でもある日、パンツくんは着古したせいでボロボロになって、ついにお母さんに捨てられてしまった。
ボクはあわてて、パンツくんを探しに行ったが……。
イエーイ。青春の一ページ
下ネタ本かと思えばそうでもない、不思議な青春の一幕を見たような気分だった。
あるとき、主人公のボクの履いていたブリーフパンツがしゃべるようになるのだが、このパンツが物知りで、いろいろなことをボクに教えてくれる。
主人公のボクは、友達が少なくて、パンツがしゃべるようになってからというもの、パンツと話をすることに意義を見出していた。
何故、パンツなのだろう。
何故、パンツを喋らせ、パンツを唯一無二の友達にしたのだろう。
不思議である。きっと意味があるのだろうが。
パンツがしゃべるようになってから、ボクは夜に一人でトイレにも行けるようになったし、友達の少ない孤独を感じることも少なくなっていった。
しかし、パンツがしゃべるのは、ボクにしか聞こえないらしい。
イマジナリーフレンドの亜種のようにも思えるが、作中のパンツくんはとてもかっこよく、頼りがいのある存在だ。
それは、ボクが無意識に憧れている理想像なのだろうか──それとも、こんな友達がほしいという願望が現れ出た結果なのだろうか──それとも、本当にパンツがしゃべっているという、ファンタジーなのか──
いずれにせよ、ボクにとって、パンツくんはとても重要な存在となった。
孤独を埋めるのに頼り、至らない自分を助けるために頼り、その結果、パンツくんは穴あきのぼろぼろのパンツになってしまった。
そう、彼との間に訪れるのは、「別れ」である。
あるとき、ぼろぼろになったパンツくんは、お母さんの手によって捨てられてしまう。
唯一無二の友達を捨てられたと知って、焦るボク。
しかしもう、パンツにも分かっていたのだ。別れがきたということに。
パンツくんは、自分から別れを切り出し、そして、一切、しゃべらなくなってしまう。
これを別れと見るか、僕の成長と見るか──見方はさまざまであるが、ボクはこれを期に、パンツくんがいなくても一人で夜トイレに行けるようになった。
そうして彼のブリーフパンツ時代は終わり、彼は中学生になってトランクス期を迎えるのだ。
彼にとって(男の子にとって?)、ブリーフ時代とトランクス時代は明らかに違うものなのだ。大人の階段をひとつ、昇ったかのような……。
最後のページは、何だか、少年の青臭い青春を思わせる。
イエーイ。
パンツくんの底抜けの明るいテンションに、主人公の彼はどんなに助けられ、心強さを得ていただろう。
パンツくんは、彼に孤独に打ち勝つ強さを授けたに違いない。
パンツくんは、きっと、彼の中で生きていくだろう。それは、彼しか知らないファンタジーだ。
青春の一ページを見るかのような
青臭い青春を思わせるかのような展開と、要素が詰まっているこの一冊。
漫画のようなコマ割りが多用されているため、読み聞かせには不向き。
内容的にも、何となく年齢が上に設定されているように思える。中学年からだろうか。幼児向けではない。
雰囲気だけでいえばティーンズでもおかしくないのだが、その年齢層は、あえて絵本は手に取らないように思える。
奥付の下に『失はれた物語』収録の「ボクの賢いパンツくん」を加筆修正の上、絵本化したものであると書いてあるので、ティーンズはこちらを読むべきかもしれない。
女の子より、男の子に共感を呼ぶ内容だろう。