あらすじ
ある日、サルが赤いろうそくを拾った。
サルは、ろうそくは見たことがあるが、赤い色したろうそくを見たことがなかったので、彼はそれを、花火だと思い込んでしまう。
彼がそれを山に持って帰ると、山の動物たちは大騒ぎになった。
動物たちは、花火をみたことがなかったので、サルが持っている「あかいろうそく」は花火だと思い込んでしまった。
サルは、花火を知らない動物たちに、花火の美しさを語った。
そんなに美しいものならば、と動物たちは赤いろうそくに火をつけることにしたのだが……。
誰も花火を見たことがなかった
新美南吉の同名のお話を絵本化した本書。
読みやすくかなづかいを改め、漢字を平仮名にしている。
子どもが一人でも読めるようにとの配慮であろう。
ある日、サルが赤いろうそくを拾うのだが、何せ、サルは赤いろうそくというものを見たことがなかったので、これを花火だと思い込んでしまう。
山の動物たちは、花火というものを見たことがなかったので、最初にサルが思い込んだ、これは花火だ、をみんなが信じてしまう。
そして花火を知っているサルは、みんなに、花火のきれいさ、すばらしさを話して聞かせる。
花火のきれいさを思った動物達が、赤いろうそくに火をつけようとするのだが……というところで奮闘する動物達の姿が面白い。そして、とても平和的だ。
最後に何も起こらず、赤いろうそくの火がキレイに灯って終わるところは、思わず苦笑がもれてしまう。
しかし、実物を見たことがないので誰かが言い出したことを鵜呑みにしてしまう……ということは、人間という動物にもよく起こり得ることだ。
最後の場面を笑えるのは、「あかいろうそく」が「ろうそく」だと知っているから。
もし、「あかいろうそく」が「ろうそく」だと知らなかったら、サルが最初に「花火だ」と言えば、それを鵜呑みにしてしまう人も多いだろう。サルのように、物知りそうに言われたら、さらに信じる人は増えるのではないか。恥ずかしながら、たぶん、私もそのうちの一人だと思う。
そんなことを考えると、この「あかいろうそく」、示唆に富んでいるなあと感じた。
このネット社会、本当のところをろくに調べもしないで、噂で出回ったことを鵜呑みにして、いろんな人が拡散していくところを何度も見た。悪意などない中で、噂だけが一人歩きし、結果的に炎上を巻き起こすところも見た。
新美南吉がいた頃はネットなんてものはなかっただろうに、現代になってより深い示唆に富むようになるとは、なんとも言いがたい気持ちになる。
彼がいた時代より、今は、よりよい世界になっているのだろうか。
彼の描いた優しい世界にそぐわない世界にだけはなっていてほしくないものだと思う。
優しく、誰も傷つかない世界
サルの思い込みが、動物たちを振り回すという、ほのぼのとした世界観である。
読んでいると心優しく、ほほえましい気持ちになる。
分かりやすくひらがなで書かれているので、一人読みにも適している。
幼児、低学年向け。