ぼくは強い男だ。
だからオバケも怖くない。
オバケが出る古い倉庫に行くのだって、怖くない。
女の生白い足の怪異
友達たちとは違って、自分は強い男だと思っている「ぼく」。
オバケが出るといううわさの今では使われていない古い倉庫にだって、平気で入る。
雨の降る、暗い夕方、一人で倉庫に入ったら──
おんなのしろいあしがあった。
「ぼく」は、全然怖くない、もっと怖がられるオバケになれよ、と女の足を叱責。
そのまま倉庫を出て、友達と一緒に帰ったんだけど、なぜか「ぼく」だけ、違う道に入ってしまった。
そこにあったのは、もう誰も住んでいないぼろぼろの空き家……
にじむような水気をはらんだ女の足が生々しい
衝撃的な場面などはほとんどないのですが、終始、じっとりとまとわりつくような妖しい雰囲気が漂っています。
オバケといっても、ただの女の白い足。気持ち悪い顔をしたオバケや、恐ろしい姿の妖怪などではありません。本当に、ただの、白い足。
暗闇でぼんやりと浮かび上がる、生白い女の足……。
これがなんとも言えず不気味で恐ろしく、妖しい。そう、妖しいんです。暗闇でぼんやりと浮かび上がる足だけの女。それなのに色気みたいなものがある。男の子の足でもなく、女の子の足でもなく、紛れもなく「女」の白い足なんです。
怖くおぞましいのに、どこか、抗えない気配がある。
女の足がどうして現れ出たのかなんて説明は一切ない。恐ろしい経緯など一つもない。説明がないから分からない。ただ女の足というものが、「ぼく」に迫ってくる。
そして何より恐ろしいのは、「ぼく」がシャワーを浴びながら思うことなんです。
「がっこうの、そうこに いた、おんなの あし。
しらない みちの、あきやの あしおと。
もしかしたら、おなじ おんな だったのかな。
だったら、ふりかえれば よかったのかな。」
「ふりかえればよかったのかな」。
「ぼく」は恐ろしさなど感じないようになって、あの女の足に魅せられはじめている……とは考えられませんか。
無自覚な、性的なものへの目覚め。
画面に描かれる美しくもなまめかしい白い女の足を見るたびに、そう感じられて仕方がありません。
「ぼく」はこれからどうなってしまうのでしょう。
白い女の足にとらわれることなく、健やかに成長してくれればいいのですが……。
足がなまめかしすぎて、いけないものを読んだ気になる
正直、これを子どもに見せることを考えると少し抵抗を覚えてしまいます。
ストーリーには衝撃的な怖さなどはありませんし、残酷な描写もありません。主人公の「ぼく」は、女の足に説教する始末。全然怖くありません。
でも……
女の足です。
本当になまめかしく、美しく、なんとも言えず妖しい。
これを小学生に見せていいものなのかどうか……? それとも私が過敏に反応しているだけなのか……?
読後、いけないものを垣間見た気分にさせます。
特に男の子には見せづらい。読み聞かせなんて(私は)したくない。
これは一人で読んで、余韻を味わう種類の本でしょう。
余談
意図していなかったのですが、ちょうどこの本の作者、岩井志麻子氏の本を読破してました。
『ぼっけえ、きょうてえ』。
これは完全におとな向けの、性的表現ありのタブーありの世界。これは子どもにはちょっと見せられません。
アメリカ資本で映像化されているのですが、奇形シーンや拷問シーンが過激なため、放送中止になった代物。日本で放送されたときは自主規制のR18。
映像化されたものを見る機会にいまだ恵まれていないので、つい先日文庫版で読ませていただいたわけですが……さもありなん。
「女の白い足」だけでこんなに妖しい気分させられるわけですなあ。
ぼっけえ、きょうてえって岡山弁で「すごく怖い」っていう意味らしいですよ
こっちは映像化したDVD。機会があれば見てみたい……けど、だいぶエログロがきつそうです。