あらすじ
地獄の入り口の前で、えんまさまは生前は歯医者だった男と向き合っていた。
歯医者は、あまり熱心な歯医者ではなく、歯の治療をするときは患者に痛い思いをさせてきたのである。
それを言うと、歯医者はしれっとこう言い返した。
「私の治療が痛いという人はうそつきなのです」
これを聞き、えんまさまは、それならばと鬼の歯の治療をさせることにしたのだが……。
恐怖の歯医者、えんまさまのもとへ
表紙の絵が、おいしそうにどらやきを食べるえんまさま。口からのぞく歯には、ところどころ、黒いものが……虫歯に違いない。
えんまさまが主人公の、歯医者騒動がお話かな?と思ったら、少し違った。
主人公は、歯医者。
地獄に堕ちた主人公の歯医者は、えんまさまからお叱りの言葉をもらってしまう。
「おまえは、いきている ときには、へたな しょうぎばかり して
しごとを なまけていたな! そのくせ じぶんの ことを
<てんか一の はいしゃ>と ほらを ふいては、たまに くる
かんじゃに、さんざん いたい おもいを させてきたであろう!」
歯医者は歯医者でも、藪医者のようである。
えんまさまのこの怒り具合、歯医者は地獄へ一直線ではないか……と思ったのもつかの間、歯医者はなんと、えんまさまに向かって開き直った。
「いえいえ、わたしの うでまえは、たしかに てんか一。
わたしの ちりょうで『いたい』などと いうものが あれば、
それは うそつきの かんじゃでございます」
なんだか、この歯医者、手強そうである。
ではいたくないのか、と尋ねるえんまさまに、そのとおりですとあっけらかんと言い放つその姿、大物である。
ほらふきも堂に入っている。
それに怒り心頭なのは、えんまさま。当然だ。
そんなにいたくないというのなら、ここで歯の治療をしていたくないことを証明しろと申しつける。患者は虫歯のある鬼だ。
ほらがバレるぞ!大変だ!と焦るのは読み手ばかりで、当の歯医者はしれっと歯の治療の準備を初めてこう言い放つ。
「これから おこないます ちりょうは、ゆうきが あり、しょううじきな
こころの ものであれば、まったく いたみは ありません。
ですから、もし ちりょうを いやがったり、『いたい』などと いうものが あれば、それは、ゆうきの ない うそつきなのでござます。では、さっそく」
あああー、そうきたかー。
バカには見えない服作戦である。
このほらふき歯医者、ほらふきであるばかりでなく、立ち回り方もうまいようだ。世渡りもうまかったんだろうなあ。……ああ、生前は、将棋ばかりやっていたんだっけ。
治療を受けることになった青鬼、もうこれで「いたい」なんていえなくなってしまった。
はいしゃは、さびだらけの どうぐを あおおにの くちの なかに
おしこむと、そこらあたりの はを てきとうに、ギリギリと ぬきはじめました。
そこらあたりの歯を適当に抜く……!?
藪どころかとんでもない歯医者だよ!?
一生懸命、痛みを耐える青鬼を見ていると、同情してしまう。両手足をこわばらせて痛みに耐えている絵を見ると生々しい。
絶対、こんな歯医者に診てもらいたくない!
やっぱり「いたい」とは言えなくなった青鬼、「いたい」と言わずひたすら耐えて治療を終える。
次の治療を待つ赤鬼は、青鬼の様子を見ていたからか、赤鬼が青鬼になるぐらい真っ青である。
赤鬼も真っ青になりながら、それでも「いたい」と言わず治療を耐えきった。
なんだか、かわいそうになってくる。いや、それとも見栄をはりきった鬼たちはすごいというべきか……。
「いたい」という発言がなかったため、歯医者を地獄に送ることができないえんまさま。
業を煮やして、ついにはえんまさま自身が歯医者に歯を診てもらうことにした。
えんまさま、先の二人の治療の様子を見ていたのに、なんでまた立候補してしまったのか……?
しかも、歯医者はまた同じ作戦を繰り出してくる。
それもわかっているのに、なぜなんだえんまさま……!
あえなく、えんまさまも同じ道をたどることになった。
なんでなんだ、えんまさま……!
かくして、歯医者は地獄にも天国にも行かせることができないので、<えんまのはいしゃ>として歯医者を働かせることに。
しかし、地獄の鬼たちは、歯医者の治療が恐ろしくて、きちんと虫歯予防に歯磨きをするようになったそうな。
めでたし、めでたし……なのかな、これ……。
歯医者のキャラがしれっとしていておもしろい
肝が据わっているのか、命知らずなのか(すでに死んでるけど)、開き直って口の回る歯医者がおもしろい。
恐怖の歯の治療の犠牲になった鬼たちを思うと素直に笑えなくなるが、この世渡り上手な歯医者はすばらしい。現世でも、うまく立ち回ってせこく生きてきたんだろうなあ。
低学年向け。
おもしろ話なので、読み聞かせもうけると思う。
