あらすじ
主人公の少年は、クリスマスイブの日、ベッドの中で耳を澄ませていた。
トナカイの引くソリの鈴の音を聞くためである。
しかし、聞こえてきたのは、全然違う音……見ると、うちの前に汽車が停車していた!
僕は、その汽車に乗って、北極点を目指すことに。
汽車には、僕のほかにも、寝間着姿の少年少女が乗っていた。
北極点では、一体何が待っているのだろう……?
クリスマスイブに起きた、素敵な奇跡。
クリスマスイブには奇跡も起こる
読んでから気づいたのだが、これは、CGアニメーション映画「ポーラー・エクスプレス」の原作である。
緻密な絵と、豊かな発想で描かれた、夢のある幻想的な一冊だった。
サンタを信じている少年が、クリスマス・イブの日に、真夜中家の前に停まった汽車「北極号」に乗って、北極点を目指す。
クリスマス・イブの夜だけの奇跡である。
雪の中、汽車が白い上記をあげて、走る──クリスマス・イブの一夜だけの奇跡。
それだけで、なんと夢のある話だろうかと心が躍る。
おまけに、絵がまたすばらしい。イブの奇跡を、確かな筆致が見事描き出している。
汽車の乗客は主人公の男の子だけではない。
いろんな少年少女が乗り合わせていた。彼らは汽車の中で楽しくすごし、ともに北極点を目指していた。
北極点で、一体、何があるのか……?
そもそも、北極点とは、どんなところなのか。
北極点はとても大きな街で、世界のてっぺんにぽつんとある。街にはたくさんの工場があり、そこではすべてのクリスマスのおもちゃが作られている。
そして、「北極号」に乗って、少年少女が北極点にきたわけは、サンタクロースからのプレゼント第一号を受け取る子どもを選ぶためだったようだ。
かくして、主人公の少年は、「プレゼント第一号」受け取る子どもに選ばれる。サンタクロースに、どんなプレゼントがいいかと尋ねられて、彼は本当にほしいものを言った。
彼は、果たしてどんなプレゼントを望んだのか。
何でも好きなものがもらえるその問いに。
彼は、なんと、トナカイが引くソリについた、鈴がほしいと願ったのだ。
願いは叶えられ、少年は鈴をもらう。
そうして、少年たちは帰路につくのだが、主人公の少年は、帰りの汽車の中で、サンタクロースから貰った鈴を落としてしまったことに気づく。しかし探しに戻る暇はない。少年は鈴をなくしたまま、家に帰る羽目となった。
そして、ここからが、この物語の素敵なところだと思う。
翌朝、少年は目を覚まし、クリスマスプレゼントを開けていくのだが、最後に、あの落としたはずの鈴がプレゼントとして出てくるのだ。しかも、サンタクロースからのメッセージつきで。
夢じゃなかった。あれは夢じゃなかったのだ。
そして、その鈴の音はとてもすばらしいものだったのに、両親には聞こえないという。
そう、これは──
クリスマスの奇跡を信じるものにだけ聞こえる、鈴。
わくわくと胸躍るクリスマス前夜の素敵な奇跡を、幻想的に、ファンタジスティックに描ききった、美しくも夢のある物語。
今も、きっと、ポーラー・エキスプレスは、子どもたちの夢を乗せて、イブの夜を走っているに違いない。
おとなになってしまった主人公の男の子でも、いまだ鈴の音は聞こえるという。
そう、おとなだって、クリスマスの奇跡を信じてもいいのだ。
圧倒的画力と、構図で描かれる、クリスマスイブの不思議なお話
見開きをほぼ一杯に使った絵と、端に寄せるようにして書かれた本文と、毎ページ構成がほぼ同じである。
文章は小説風で、文章量もそこそこある。
中学年向けだろう。
絵はとても迫力があっていいのだが、渋めの配色なので、こども向けとしては好みが分かれるところ。
クリスマスが近づいた季節に読みたい一冊である。