『よるのおと』──夜の静けさを感覚的に描いた絵本

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あらすじ

男の子が、夜、懐中電灯を手に、おじいちゃんの家に向かっている。
そこには虫の声や、遠くを走る汽車の汽笛が聞こえる。

静かだ。

家の前にある大きな池では、カエルが鳴いている。
鹿は池の水を飲んでいる。

静けさの中、男の子はおじいちゃんの家に向かっている。

 

「夜の音」を描いた絵本。

 

夜の静けさを描いた絵本

夜の静けさ、というものがある。
決して音がないための静けさではない。
虫の声もするし、遠くで電車の走る音も聞こえる。カエルだって鳴いているかもしれない。鳥だって突然鳴いたりもする。

しかし、静けさというものは、確かにそこにあるのだった。

 

『よるのおと』は、そんな夜の静けさを描いた絵本である。
この絵本には主人公がいない。
いるとしたら、夜の静けさそのものが主人公か、読み手が主人公だといえるだろう。

静けさ、というのは前述したように、無音ということではない。
かすかな音があって初めて、「静かだな」と感じるものである。観測者がいて初めて、静けさは成立する。

 

誰も知らないところで(読み手だけが知るところで)、静かな夜に静かな出来事が淡々と起きている。
池の鯉が悠々と泳ぎ、蓮の葉に乗ったカエルは蛍をのばした舌で補食する。そのカエルをねらって、フクロウが飛び立つ。紙一重の差で、カエルは池に飛び込んだ。池には波紋が広がっていく。それはいつしか宇宙となり、静かな美しさをたたえて消える……。

 

これは静けさという美しさを描いた本だ。
作者はあとがきで、芭蕉の「古池や 蛙飛び込む 水の音」の句について触れている。
『よるのおと』でカエルが池に飛び込み、波紋が広がっていくさまはこの句のオマージュだろう。

 

文章はあるが、物語をつづるようなものではない。ただの環境音だ。
これはタイトルのとおり、『よるのおと』を深く味わうための本だろう。

 

残念ながら読み聞かせには向いていない

絵を見て、じっくりと自分の中で静けさを再生するような本なので、読み聞かせには不向き。
カエルや蛍、フクロウなどが動きを見せるが、そこにははっきりとした起承転結のある物語が繰り広げられているわけでもない。
「静かで美しい感覚」を楽しむ絵本だろう。

読むだけなら幼児からでも読めるが、大半は首を傾げるだろう。残念ながら、万人受けするような類の本ではない。
逆に、おとな向けと考えたほうがいいかもしれない。日々に疲れたとき、そっと開くような本だ。

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