あらすじ
怖い話が七つ収録されている。
それぞれ独立した話で、登場人物にもつながりはいっさいない。
どの話から読んでも支障はない。
「首七つ」
温泉旅館に家族旅行で泊まりにきた私。
早朝早く、楽しみにしていた混浴風呂に入りに行く。ここの混浴風呂は、露天風呂があるのだ。
お風呂好きな私は、早朝なら人もいなくて大丈夫だろうと考え、一人こっそり露天風呂につかりに行く……。
「ヤドカリ」
引っ越ししたばかりの香奈は、学校が遠くなったせいで帰りが遅くなる。
ある日の帰り道、香奈はコンビニエンスストアの駐車場にしゃがみこむ女を見かける。あんなところでしゃがみこむなんて汚い、とは思ったが、特に気にかけることもなく、その日は帰宅した。
その次の日も、香奈は帰り道で交差点にしゃがみこむ女を見た。どうやら、昨日見た女と同じ女のようだったが……。
「幽体離脱」
幽体離脱ができる俺。
目が覚めて、起きあがろうとしても、身体は横たわったまま、ということがままあった。
何度かちゃんと目をさまそうと努力して、ようやく身体を起こすことができるといった状態もあった。
そんな状態に慣れっこになりつつも、不便を感じていた俺だったが……。
「早起きは三枚のせんべい」
「早起きは三文の徳」というから、おまえも早起きしたらどうだといわれたアキ。
「早起きは三文の徳」の意味を尋ねたら、早起きすればだいたい三百円ぐらい儲かるということだ、と言われ、アキは早起きしてジョギングをすることにした。
早朝、アキがジョギングをしていると、見知らぬおばあさんに声をかけられ……。
「ボクの神様」
前世、ミドリガメだったボクは、死んで神様に会い、次は何になりたいか尋ねられる。
ボクは、人間の家族に囲まれた犬になることを選ぶ。
果たして、犬に生まれ変わったボクだったが……。
「河童」
友達の愛美の恋愛を応援しようと、咲は奮闘していた。
愛美はかわいいけれど、なかなか恋に積極的になれないタイプ。
今日だって、愛美と翔太のデートを成功させようと、三人でプールに来ていた。
二人をじゃましてはいけないと気を使う咲。
しかし、咲は、プールで気味の悪いものを見てしまう……。
「怖かったの」
妹の千佳が、怖い夢を見たという。
兄である俺は、千佳の見た怖い夢の話を聞いてやることにした……。
本当にあった怖い話、的な……
怖い話が七つ。
児童書だからとたかをくくって読み始めたのが間違いだった。
目次を見ると、「首七つ」「ヤドカリ」「幽体離脱」「早起きは三枚のせんべい」等々、最初の「首七つ」が意味深長なのをのぞけば、子ども向けの怖い話なのだろうと思った。特に、「早起きは三枚のせんべい」なんて、どこをどうひねっても、怖い話なんだなぁというイメージがわいてこない。
そもそも、この本を見つけたのは、ふつうの児童書の棚だった。
怖い話の本は怖い話の本としてコーナーが作られているというのに、この本だけが児童書の棚の「ひ」のところに縦置きされていた。
だから、最初の出会いは背表紙の「首七つ」というタイトルと、その下にしゃれた字体の赤文字で小さく書かれた「SEVEN MYSTERIOUS STORIES」、それと著者名しかなかった。
怖い話が好きな私として、「首七つ」というタイトルはとても目を引いた。これはどう考えても、怖い話の本だ。直感した。だいたい、日本でのミステリアス、ミステリーという言葉ほど、幅の広い意味を持つジャンルはない。だけど、私はこれは怖い話の本だろうと直感したのだ。そして、その直感は間違っていなかった。
怖い話の本のコーナーから漏れてしまったのかしら、と気軽に手を取り、気軽に読み始めたら、児童書らしからぬ異質な雰囲気をまとう短編に、思わず裏表紙を見て対象年齢が書いてないか確かめてしまった。私がそうしてしまったのは、たまに、児童書は裏表紙に対象年齢が書かれているときがあるからだ。そうしてしまうほどに、この本の内容は、なんというか、どの短編もじっとりとしているというか、読んでいて居心地の悪さを感じるというか、どうにも気味の悪いものを感じさせた。
とてつもなく怖いというわけではない。
かといって、全く怖くないというわけでもないが、これは学校の怪談本や、小学校低学年向けの怖い話の本とは明らかに異としている。
この気味の悪さ、落ち着かない気持ちになる感覚、考えてみるにネット上で広がった怪談を読んだ後の気分に似ている。テレビの怖い話ショートドラマを見た後の気分にも似ているかもしれない。
何にせよ、心構えしてなかったところに、ホラー小説の一篇を投げつけられたかのようなていになった。不意打ちだ。ミステリアスどころではない、ホラーじゃないか、と読後、非難がましく表紙を見た。
内容に関していえば、怖さを感じるのは人それぞれ度合いがあるので、一概にどれが一番怖いと言い切ることはできない。できないが、私個人としては、最後の一篇「怖かったの」が一番後味悪く、いやな気分になった。
七篇中、幽霊が登場する話もあるが、人間が一番怖い、という結末を迎えるものもあり、短編怪談集としては多彩。
結末はどれも後味が悪く、昨今の創作怪談話としては王道。
描写が細かく、思わずぞっとする場面も。
児童書としてはそうそうないであろう、水死体の描写や生き物がつぶれている描写などもある。人によっては、気持ち悪くなるだろう。
短編ながらも、じっとりとした怖さ、人間の恐ろしさなど、ジャパニーズホラーの特徴をしっかりとおさえた、ホラー小説の入門書。
児童書とたかをくくって読み始めると、思わぬ本気さに不意打ちをもらう羽目になるのでご注意を。
ティーンズ向けホラー小説
描写も細かく、漢字のふりがなも少ない。地の文も多いので、ティーンズ向けだろう。
挿し絵はいっさいない。
前述したように、ミステリアスストーリーズと英文が添えられているが、幻想文学ではない。中身はホラーである。
学校の怪談や、低学年向けの怖い話に飽き始めた子におすすめ。
ただし、収められた短編すべて後味の悪い終わり方をするので、幽霊が成仏したなどといった解決を期待してはいけない。