『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』──不思議な駄菓子が悩み事を解決する

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価格情報更新時間:2024/03/29 19:09(更新

あらすじ

ここはふしぎな駄菓子屋、「銭天堂」。店主は大柄な女性、紅子。
ところ狭しと陳列された駄菓子には、ふつうでは考えられない不思議な力が宿っています。

この店に訪れるのは、悩み事のある幸運なお客様。
「銭天堂」の不思議な駄菓子が、悩み事を解決してくれるでしょう。

「型ぬき人魚グミ」
泳げない真由美は、プールの授業が始まると知って、とても憂鬱だった。鬱々と下校していたら、知らぬ間に見覚えのない道に入っていた。
そこで見かけたのは、駄菓子屋「銭天堂」。
足を止めて、並べられた駄菓子を見ていると、店主らしき大柄な女性が話しかけてきた。
聞けば、真由美の泳げないという悩みを解決する駄菓子があるという。
店主は、「型ぬき人魚グミ」と書かれた箱を取り出してきた……。

「猛獣ビスケット」
信也は妹の恵美を怖い話で怖がらせ、泣かせるのが好きだ。ついつい泣くのがおもしろくて、何度もいじめてしまう。
ある日、信也は恵美と二人でお使いに行くことになった。いつものように、道中、怖い話て泣かせてやろうとすると、恵美が逃げ出した。
あわてて追いかけ、路地に入ると、そこには見知らぬ駄菓子屋、「銭天堂」があった。
恵美は店の中で、店主となにやらはなしている。信也は店先に並べられた珍しい駄菓子に見入っていた。
恵美がなにやら、買い物をしたようだ。信也も何か買おうとしたが、店主は信也は幸運のお客さんではないから、駄菓子は売れないという。
納得いかない信也は、ほしい駄菓子をこっそり盗んでしまった……。

「ホーンテッドアイス」
一人暮らしを始めたばかりの美紀。借りたアパートにはクーラーがついておらず、夏の暑さに参っていた。
コンビニに行ってアイスでも買おうと思い立って出かけたが、いつの間にか知らない道に入ってしまい、気がつくと駄菓子屋があった。
店の前に、張り紙がはってある。「ホーンテッドアイスはじめました」。
アイスがほしかった美紀は、早速、そのアイスを買うことにした……。

「釣り鯛焼き」
鯛焼きが食べたい慶司は、鯛焼きを買いに行ったのだが、目当ての店はお休みだった。
がっかりする慶司の鼻先に、おいしそうな鯛焼きのにおいが漂ってきた。においにつられて進んでいくと、そこはみたことない駄菓子屋があった。
店主が鯛焼きを食べている。においはそこからしているようだった。
慶司に気がついた店主は食べていた鯛焼きを平らげてしまうと、望みの品物は何か、と尋ねてきた。慶司は「鯛焼き」と即答した。
店主は承知すると、「釣り鯛焼き」と書かれた箱を取り出してきて……。

「カリスマボンボン」
うだつのあがらない美容師の典行は自分の待遇に不満を持っていた。勤めている美容院では、いつまでも下っ端扱い。同じぐらいの年齢の美容師たちは、独立したり、出世したりしているというのに……。
しかし、典行がいつまでも下っ端扱いなのは、原因があった。人に教えを請わず、教えられても無視し、後輩にはいばり、すぐ拗ねる。典行は嫌われていた。
楽して有名になりたい!と心からそう思ったとき、典行は薄暗い路地に駄菓子屋があるのを見つけた。
店の中から、店主がでてきて、望みのものは何かと尋ねてきた。
典行は、有名になりたいと答えた。
店主はそれならばと、銀が実で包まれた丸いものをとりだした。表面に貼られたシールには、「カリスマボンボン」と書かれていた……。

「クッキングツリー」
翔平と北斗の母親は、子どもが嫌いだ。機嫌のいいときはいいが、ちょっとでも機嫌を損ねると翔平たちをののしったり、ものを投げたりして、家を出ていってしまう。
しばらく帰ってこないのもしょっちゅうで、翔平と北斗は汚れたアパートでおなかをすかせて母親の帰りを待つしかなかった。
またもや母親がでていってしまったアパートで、翔平たちがおなかをすかせて困り果てていたとき、不意に玄関のチャイムが鳴った……。

 

駄菓子+不思議+お悩み解決=?

駄菓子は好きだろうか。
駄菓子を食べたことはあるだろうか。

私は駄菓子が大好きで、昔ながらの駄菓子というものの中には食べたことのないものも結構あるのだが、駄菓子をフィーチャーした店舗が地下街などに入っていると、まず寄り道せずにはいられない。
そうして、一つ一つのの単価が安いものだから、つい調子に乗ってあれもこれもと買いまくってしまい、駄菓子だけで何千円、と使ってしまう。これぞ本当の大人買いというやつだ。遠足のときの何百円ぽっちの上限がないなんて、おとなは実に幸せだなと思う。

『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』は、駄菓子をキーワードにした短編物語集だ。話には必ず駄菓子が登場する。
しかし、この駄菓子はふつうの駄菓子ではない。不思議な力、効力を持つ駄菓子なのだ!
食べただけで泳げるようになるグミ、鯛焼きを竿でつり上げられる駄菓子セット、ハンバーグやグラタンなどの料理の味のする実をつける木の栽培セット等々。読んでいるだけで、夢が広がっていく駄菓子ばかりだ。

しかし、そんな不思議な力を持つ駄菓子を売っている「銭天堂」は、選ばれた幸運な客しかいくことができない。行こうと思って行けるお店ではないのだ。店主は紅子という年齢不詳の大柄の女性だが、いったい、彼女が何者なのか、店の正体は謎に包まれている。店の場所ですら不明で、選ばれた者が迷い込んで偶然見つけるといった具合だ。

だから、こんな不思議な駄菓子屋が、絶対に存在しないとは言い切れない。見つけられないのは、自分が(今は)幸運の客じゃないからという理由かもしれないではないか。

本作では、不思議な力を持った駄菓子を購入した客が、その力を使っていってどうなるかを描いている。客の視点から描かれるため、短編ごとに主人公が違う。「銭天堂」と店主の紅子、そこで不思議な駄菓子を手に入れるということだけが共通点だ。

不思議な駄菓子を手に入れ、望む力を身につけた客たちが、その後どうなるか……ハッピーエンドに終わるものもあれば、欲を出しすぎて失敗するエンドもある。
バッドエンドのときは、人間の欲深さや、身勝手さを糾弾するかのような展開が多い。しかも、あまりに目に余る身勝手な客には、救済処置はない。

不思議な駄菓子は、望んだ効力を与えてくれるが、それをどう使うかは自分次第。運命はいい方へも悪い方へも転がりうる、ということだ。

全体の話にこれといって大きなつながりはないが、話の根底には、相手を思いやる気持ちの大切さや、人の優しさの大切さが描かれている。

主人公になる客の年齢層も広いのがおもしろい。
駄菓子という子どもが好みそうなものと、読者の年齢層にあわせて、登場する客は子どものみかと思っていたが、成人した男性や、女性も登場する。みな、それぞれに悩みを抱えていて、駄菓子の力によって解消していくのだ。

不思議な駄菓子も魅力的だが、何より話の展開がおもしろくて、先に先にと読み進めてしまう。一つの話はさほど長くなく、さらりと通して読めるのに起承転結がしっかりとあって読むのが楽しい。おとなが読んででもほろりとするような話もある。

この「銭天堂」、シリーズ化していて、以下続刊している。
私もすっかりファンになってしまい、最新刊まで読んでしまった。実におもしろい。

 

駄菓子が好きなら、楽しめる一冊

対象は小学校中学年から。
取っつきやすい文章で書かれているので、すらすらと読める。

同作者の「もののけ屋」シリーズとよく似た構成と雰囲気であるが、「銭天堂」シリーズのほうが明るい作風の印象。
「もののけ屋」シリーズのほうがさらにいっそう、人間の業の深さを描いた内容が多いように思える。
対して「銭天堂」のほうは、人間の持つよい部分に焦点を向けた話の割合が高い。
「もののけ屋」シリーズが好きな人も、「銭天堂」シリーズを楽しめるだろう。

 

また、表紙がとても魅力的。
「銭天堂」の店先に店主の紅子が座っているという構図なのだが、こまごまと書かれた駄菓子の数々は思わず目を引く。本書に出てきた駄菓子も書かれており、見つけるとちょっとうれしくなる。

 

しかし、むき出しの飴やクッキーなどを大きな瓶からほしい分だけを取り出すシステムは、このところあまり見なくなったなあ……。

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