部屋の扉を開けると、きいきい。
きいきいきいきいきいきい。
最初はちょうつがいがきいきいだったのに
「ぼく」はあるとき気がついた。ちょうつがいがきいきいと鳴ることに。
よく見てみると、大変だ。おばけが挟まってる。挟まれたおばけが、いたいいたいと。
「ぼく」はお兄ちゃんに知らせに行った。
でもお兄ちゃんは相手にしてくれない。そればかりか、お兄ちゃんが座っている椅子を回すから、きいきい、音がする。
よく見てみると、そこにもおばけが挟まっている。いたいいたい。大変だ。
「ぼく」は外へ駆け出した。
公園のブランコ、赤ちゃんを乗せた乳母車、走っている自転車、みんなきいきいきいきい音がする。
おばけが挟まって、いたいいたい。
大変だ。
「ぼく」は駆け出した……
想像と知覚に訴える恐怖と、視覚からにじむ恐怖
怪談えほんシリーズ、『ちょうつがいきいきい』。
蝶番がきしむ音は確かに生理的に嫌なものです。それがおばけの挟まっている音だったら……。
「ぼく」はだんだん、すべての「きいきい」が気になって気になって、どこに行っても「きいきい」を聞きつけてしまいます。そのすべての「きいきい」におばけが挟まって、いたいいたいと言っているのなら──
大変だ。
「ぼく」は道を飛び出しました。
きいきいきいきい。急ブレーキをかけた車のした、トラックの下、全部の車の下!
後半にかけて盛り上がる恐怖、最後は……
衝撃的な結末に驚かれるかたも多いでしょう。
落ちた椿の花が象徴的。
残酷な描写は一切ありませんが、衝撃的な展開に刺激が強すぎる子もいるでしょう。怖いものが好きな子は大丈夫かもしれませんが、苦手な子にはおすすめできません。
ストーリーはやや考察が必要ですが、結末はなんとなく想像できるかと思います。
更に怖いのは、絵の随所におどろおどろしい要素がつまっていること。
ついてくる女の子(作中では全く触れられておらず、妹かどうかも謎)、手招きするかのような不気味な枝の木、片方だけの靴。車のおもちゃは乱雑に置かれ、何かを暗示するかのようです。玄関先のカラス、骸骨のように見える荷台の荷物。喪服の親子。特に喪服の親子は、母親の手が透けて見えます。向こう側の住人なのでしょうか……。
最後、駆け出した「ぼく」の背中に小さな手形が見えます。狂気の深淵に立った「ぼく」の背中を誰かが押したかのようです。その誰かは分かりませんが……、混乱をきたした「ぼく」は車の行きかう道路に飛び出していき……。
もうこれで、蝶番のきしみに反応せずにはいられなくなったはず……。
きいきいきい。