あらすじ
主人公のぼくは、紙の帽子をかぶり、新しいラッパを持って、森の中に散歩に出かけた。
散歩していると、ぼくはライオンに出会った。
ライオンは、たてがみをくしでとかし、ぼくについてきた。
次にぼくは、水浴びしていた二頭のゾウに出会った。
二頭のゾウは、ぼくの後についてきた。
そうして、ぼくはいろんな動物と出会い、いつしか、行列ができあがっていたのだ……。
黒で描かれた不思議な森の中
その黒一色で描かれた絵は、不思議な魅力に満ちている。
黒一色で描かれているのに、奥行きがあるように感じられるのだ。
その本の名前は、『もりのなか』。
読みつがれる絵本として名前のあがることも多い作品である。
主人公の「ぼく」は、紙の帽子をかぶり、新しいラッパを持って、森へと散歩に出かける。
一人で森に出かけて大丈夫?と思うのだが、もしかしたら、この「森」というのも主人公の彼の空想なのかもしれない。そう思うほどに、黒一色で描かれた絵は不思議な静謐さを秘めているのだ。
彼が散歩に出かけると、いろいろな動物と出会う。
まずはライオンだ。
現実的には恐ろしいライオンも、この物語においては恐ろしくない。そればかりか、ライオンはたてがみを櫛でとくと、「ぼく」についていくのだ。
それから、二匹のゾウと出会い、彼らもついてくる。
その後も、様々な動物たちと出会っては、彼らは「ぼく」についてくるのだ。
ラッパを持った主人公の少年と、その後をぞろぞろとついていく動物たち。まるでパレードのようである。
出会う動物たちはしゃべることが少ないながらも、それぞれ個性的で、次はどんな動物が現れるのだろうかと楽しみになってくる。
パレードさながらに練り歩いた彼らは、一緒にお菓子を食べて、一緒にハンカチ落としやロンドンばし落ちたをして遊ぶ。
次にかくれんぼをする段になったら、主人公の「ぼく」は鬼をやることになってしまった。目隠ししてから、「もういいかい!」と目を開けると、動物たちは全員いなくなっていて、その代わりにお父さんがいた。
お父さんは、「ぼく」を探していたという。
いったい誰と話していたのか、と尋ねられて、ぼくは、動物たちと話していたと答える。
この答えを父さんは信じたのか、信じなかったのか……それはわからないが、父さんはそろそろ帰ろうと言う。動物たちは次まで待っていてくれるよ、とのことである。
ぼくは父さんに肩車されながら、森の動物たちに告げる。
「さようならぁ。みんな まっててね。また こんど、さんぽに きたとき、さがすからね!」
動物たちと遊んだのは、空想の中の話だったのか、それとも……。
なんとも、不思議な余韻を残す一冊だ。
孤独な森の中も、動物たちがいれば寂しくない。
そんな思いが、動物たちを引き寄せたのかもしれない。
主人公のぼくは、楽しいひとときを過ごせて、満ち足りた気分になっただろう。
黒一色で描かれたその独特な世界観は、ほかの本ではあまり見られないものだ。
華やかさはないが、不思議な魅力に満ちている。
本文はシンプル
絵は黒一色だが、シンプルといった感じは受けない。本文はシンプルに必要最小限にとどめているようだ。
幼児、低学年向けだが、この独特な世界観は人を選ぶだろう。
黒一色のためどうしても華やかさがなくなってしまうので、子どもが自発的に手に取ることが少ないかもしれない。読み聞かせ向きかも。