『ぼくのドラゴン』──その世界では、みんなに一匹ずつドラゴンの相棒があった

あらすじ

アオバには、一番の相棒がいる。ドラゴンのアオだ。
だけど、村の決まりで、ドラゴンの相棒のことはみんなには内緒だった。

村の人には、みんな一人に一匹、ドラゴンの相棒がいる。
ドラゴンの相棒のことは、みんなには内緒にしているのだ。

アオバとアオは、いつも一緒にいたが、大きくなるにつれ、だんだん離れている時間も多くなってきた。
そして、アオバがおとなとして認められようとするとき、アオもおとなのドラゴンとして変わりつつあった。

このままおとなになって、アオは遠いところにいってしまうの……?

おとなから子どもへ。
微妙な心の動きを描いた作品。

 

誰もが一匹、ドラゴンの相棒を持っている世界

この世界には、誰もが一匹、ドラゴンの友達がいるのだという。そのドラゴンのことは、みんなには秘密。
赤ん坊のころ、握っている手の中に卵があって、それが孵ってドラゴンになるという。

誰もが一匹のドラゴンの友達がいるということは、子どももおとなにもいるというわけだ。その上、生まれたときから一緒にいるから、成長もともにする。

主人公のアオバにも、アオというドラゴンの相棒がいた。
生まれたときから一緒にいるドラゴンだ。その関係は、兄弟のようでもあるのだろう。しかし、ドラゴンのことはほかの人には内緒なので、たった二人だけの世界がアオとの間にはある。

しかし、年月は流れる。
成長は人もドラゴンも止められない。
アオバがおとなの一員として認められることになったとき、ドラゴンのアオもまた、一人前のドラゴンになるときを迎える。羽のなかったアオから、羽が生えたアオに。子ども時代は終わりを告げ、いつも一緒にいた関係も終わりを告げる。アオは遠くに住み、必要なときだけ、アオバの元に返ってくるようになるのだ。

別れは寂しい。アオバは刻々と近づいてくる関係の変化に、あらがいがたい寂しさを感じていた。

アオバは、両親から言われる。
アオが不安なときに、アオバまで不安そうにしていたらアオはもっと不安になる。だからアオバは平気そうに、大丈夫だよと言ってあげることが大切なんだよ、と。

アオバは不安だった。
アオとの関係がどうなっていくのか。
今までのようにずっと一緒にいられなくなるのが。
でも、それはアオも同じだったと、アオバは羽の生えそうなアオの様子を見て気がつく。
一番不安なのはアオ。
自分の体から、羽が生えてきて、うまく飛べるのか。これからどうなるのか。

それに気がついたとき、アオバは自分がひしひしと感じていた不安と寂しさを押し込めて、アオに向かって笑うのだ。大丈夫だよ、と。

そして、アオはアオバより一足先におとなになった。美しい青色の翼を生やし、空を飛んだ。

アオバの中から、寂しさはすぐには消えない。でも、おとなになっても、アオバとアオは親友で相棒だ。何かがあれば、すぐに駆けつける。
そう、心はいつもそばにいるのだ。
そう思えたアオバは、今までより少しだけおとなに近づけたのではないだろうか。

子どもからおとなへ。
この物語は、その微妙な境目の心の機微を、ドラゴンというファンタジックな生き物を通して描かれている。

 

横書きでつづられるファンタジックな物語

ドラゴンが登場するが、いわゆる王道ファンタジーではなく、アオバという少年の成長を描いた作品となっている。
本文は横書きで、挿し絵も豊富に収録されている。
中学年からが対象だろう。