あらすじ
泥棒の三人組がいた。
彼らは、ベテランの泥棒だった。
金目のものを奪っては、隠れ家に隠していた。
しかしあるとき、馬車を襲ったら、馬車の中にいたのは女の子ひとり。
しかも彼女はいじわるなおばさんのところで暮らす予定だったので、そんな生活をするよりかは、と女の子は三人組についていくことにした。
三人組は、女の子を隠れ家につれていった。
女の子は、隠れ家にあった、三人が盗んだ金目のものを見て、なにに使うの？と三人組に尋ねる。
三人組は答えられなかった。
そう、彼らは盗んだものをどうする予定もなく、盗みを働いていたのだった。
そこで彼らは……。
悪人の三人組が、すてきな三人組になるには
これほど特徴的な絵本はないだろう。
華やかな色使いが多くなりがちな絵本の中にそっと紛れ込んだかのような、黒と青の個性的な絵本。
そう、『すてきな三にんぐみ』だ。
長らく愛読されてきたこの絵本について、多くを語る必要はない。この作品の放つ個性は、唯一無二だろう。
あるところに三人組の泥棒がいた。
彼らは泥棒のベテランで、馬車を襲っては、金銀財宝を巻き上げることを繰り返していたのであった。
そう、主人公たちは泥棒なのだ。しかも、絵本にありがちな、間の抜けた泥棒などではない。仕事を完璧にこなす、泥棒なのだ。まあ、やっていることは泥棒というより、強盗に近いのだが、それでも彼らは悪人なのである。
彼らは会話らしい会話をしない。だから、なにを思って泥棒稼業に身をやつしているのかはわからない。これは物語全部を通して徹底していて、彼らが自分たちの心のうちを述懐することはないのだ。
ただ、彼らは、あるとき、金銀財宝の代わりに、意地悪なおばさんと暮らすことになっていた女の子を奪ったことでその生き方を変えることになる。女の子は、金銀財宝を見て、彼らに尋ねるのだ。これをどうするの？と。
このくだりで、なにを考えているのかわからなかった三人組の心の内をかいま見ることができる。そう、彼らは特になにかをしようと思って金目のものを集めていたわけではなかったのだ。彼らはそのことに気づかされたのだろう。
そして金の使い道について改めて考えた結果、彼らは孤児やみなしごを引き取ることに決めたのだ。
悪人だけど、悪人じゃない。
彼らの不思議な人物像が浮き彫りになってくる。
彼らは、一面から見れば悪人である。
しかし、違う面から見れば、善人なのである。
この矛盾が、人間らしいといえば人間らしい。
切ないことには、三人組たちが孤児やみなしごを引き取るようになって、引き取られる子どもたちがどんどん増えていったことだ。絵では、軒先において行かれた子どもたちもいたことすら、示している。
悪人の泥棒に、子どもたちを任せていくという矛盾。
次から次へと増える子どもたち。
盗んだ金目のもので、子どもたちを養う三人。善とは？ 悪とは？
決して幸福なだけでない『すてきな三にんぐみ』の世界がそこにある。
三人組がなしたことは、美談として語り継がれていったのだろう。
家のない子どもたちにとって、三人組は救いだった。だからこそ、子どもたちは、赤い帽子と赤いマントを身につける。
悪人であった彼らが、深く慕われるようになったということ。
矛盾に満ちたリアリティが、この作品の根底にあるように思えてならない。
一度見たら忘れられない個性的な表紙
絵本の中でも異彩を放つこの表紙は、一度見たら忘れられない。
中身の絵についても同様のことが言える。
癖がありそうな雰囲気をしているが、お話そのものは易しく書かれている。読み聞かせ映えもするだろう。
幼児、低学年向け。
