あらすじ
ニューヨークのセントラルパークの動物園には、ロイとシロという雄同士のカップルがいる。
彼らはほかの異性愛カップルと同じように、互いに愛情を示しあい、仲むつまじく生きていた。
しかし、ロイとシロは同性カップル。
ほかの異性愛カップルのように、卵を生むことかできません。ほかのカップルたちは卵を生んで暖めているのに、自分たちは卵を暖めていない……。
それに気づいたロイとシロは、卵と似たような形の石を巣に持ってきて、それを一生懸命暖め始めました……。
パパがふたりの赤ちゃん誕生
ペンギンの雄同士がカップルが、育児放棄された卵を暖めて孵した、というニュースをどこかのブログで読んだ記憶が残っていた。
その雄同士のカップルは、卵を孵したがっており、石を一生懸命暖めていたというから、それほどに望んだ卵が孵って本当にうれしいだろう、という感想を持ったぐらいで、後はどうということはなかったのだが、最近になってそれが絵本化されていると知って、いそいそと読んでみた。
それが、この『タンタンタンゴはパパふたり』である。
人間に限らず、同性愛というのはいろんな動物に見られるのだそうだ。
ペンギンも例外でなく、しばしば、同性同士のカップルのニュースを見ることがある。
本書のパパは、ロイとシロという。
本当に仲の良いカップルらしく、仲むつまじく過ごしている姿が愛らしい。
ほかの異性愛のカップルが卵を暖めるように、自分たちも卵を暖めようとするが、こればかりは同性カップルはどうしようもない。だから、彼らは卵によく似た大きさの石を一生懸命暖め出すのだ。
この一生懸命さに、胸が打たれる。
石を暖め続けても、もちろん雛は孵らない。
そこで、飼育員は、育児放棄された卵をそっと彼らの巣に忍ばせておくという方法をとった。彼らはその卵を一生懸命に暖め続け、ついに、念願の赤ちゃんペンギンが誕生するのだ。
彼らは、ほかの動物のカップルとどこも変わりない。
ただ、同性カップルだから卵が生まれないだけだ。
同性で仲むつまじくしている彼らを、動物園側も引き離すことはせず、そっと見守り続けたのがすばらしい。繁殖のため、引き離される同性カップルのケースもあるだけに。
育児放棄された卵を、彼らに託した飼育員の決断もすばらしい。
彼らを愛し、あたたかく見守り続けてきたからこそ、飼育員も彼らを信じて卵を託せたのだろう。
彼らは卵を孵した後も、ちゃんと雛の世話をしているとのこと。
雛の名前は、タンゴ。
動物園内では、パパが二人いる唯一のペンギンになった。
この動物園の英断と、愛情の深さに感じいる。
飼育員が彼らを暖かく見守っていなければ、タンゴは誕生しなかっただろう。
ましてや、ロイとシロを引き離していたかもしれない。
二人を見守り続けてきたこと、二人の愛を察しても自然のままにしておいたこと。ほかのカップルと同じように扱ったこと。
そこに、動物園側の愛情の深さを感じる。
振り返って、「なら私たち人間は?」と考えずにはいられない。
私たち人間は、LGBTについて、どう考えていくべきだろう。
ペンギンの仕草もかわいい絵本
同性愛を扱った絵本だが、ペンギンの絵もとてもかわいく、文章も分かりやすく読みやすい。
特に同性愛について問題提起するわけでもなく、自然なことであると描かれているのがとてもいい。
ロイとシロが、一生懸命、石を暖め続けているところなどは、心打たれるだろう。タンゴ誕生の瞬間はうれしくなるはずだ。
この話はフィクションではなくノンフィクション(絵本化に向けて、多少の脚色はあるかもしれないが)。
小学校低学年から中学年ぐらいまでが対象だろう。
読み聞かせにも向くが、わりと話が長く感じるので、一度に全部読むのは大変かもしれない。子どもの集中力と要相談。