本好きによる本好きのための絵本。
あらすじ
モリス・レスモアは、本が大好きでした。
物語を読むのが好きで、自分でも本を書いていました。
しかし、あるとき、激しい風が吹き荒れ、町もモリスも、みんな吹き飛ばされてしまいます。
すべてをなくしたモリスの前に現れたのは、空とぶ本につかまってどこかへ飛んでいこうとしているきれいな女の人……
女の人は、自分の腕に乗せていた青い本を、モリスのもとに遣わし、空に去っていきました。
女の人が遣わしてくれた青い本は、モリスを立派な建物に案内してれました。
空とぶ本が、次々と建物に入っていきます。本たちはこの建物に住んでいるのでした。
導かれるようにして建物の中に入ったモリス。
そこはたくさんの本たちの住む場所でした。
モリスは、この不思議な建物で、本たちと一緒に暮らすことになりました。
本の奇跡
これは本好きの本好きによる一冊だ。
私もそんな読書家というほどの冊数は読んでいないのだけど、図書館や本屋を見かけると足を踏み入れたくなるほどには本好き。部屋の面積と荷物の重さの問題で、最近は電子書籍に移行しつつ、紙の本を買うこと自体を控えているけど、本が好きだ。古本屋さんのにおいでおなかが痛くなる体質だったとしても。
この『モリス・レスモアとふしぎな空とぶ本』、なんともタイトルが魅力的すぎて、本好きはきっとついつい手を通ってしまうことでしょう。
そのタイトルの持つ魅力通り、図書館や本屋さんが好きな人にはたまらない一冊になると思います。
表情豊かな本たち……本そのものがキャラクター化されていて、画面上は駆け回る、飛び回る。可愛い。そんな本たちに囲まれて暮らすモリスがうらやましく思ったりもします。
すべてを失ってもまた、心は動き出す。本という糧を力にして。
灰色だった彼が色彩を得たところから、彼と本によるかけがえのない、充実した毎日が始まるのです。心の豊かさは、人によってはさまざまではあるけれども、本を読むということも方法のひとつなのではないかと思います。
傷ついて、どうすればいいのか分からないときに、歩き出す力をくれる本。
彼らは進んで力を貸してくれるわけではありません。自分の力で手にとって、読んで、心に響かせることができてはじめて、本たちは自分の中で糧となり礎となって、「希望」になったり「教養」になったり、「知恵」になったりする。
私はモリスほどに愛書家かと問われればそうだと答える自信がないけれど、本に励まされた過去があるから、本の力を信じている一人でもあります。
だからこそ、稚拙な文章ながら、絵本の紹介レビューを続けているわけですけれども……。
緻密でリアルな画風と落ち着いた色合いのイラストは、いかにも海外の絵本らしく、グラフィックノベルに近い趣があります。
この絵本を読み終わったとき、短編のアニメーション映画を見終わった気持ちになることでしょう。それほどに画面が美しい。本というものへの愛と、信頼が伝わってくる。
人が一生を終えても、その人が書き残した事は残る。本は残る。
本も永遠に生きるという事はないけれど、好きな作家が逝去されるたびに、私はひどく悲しくも不思議な気持ちになる。好きになった作家がすでに亡くなっているときに、なんともいえない気持ちになる。
人の一生は短いけれど、本のいのちはずっと長い。作家がそのときどんな気持ちで本を書いたのかはもう分からなくなってしまうけど、本そのものは長く読み継がれていくものなのだと。
でも、本は、読まれることによってしか、そのいのちをとどめておくことはできない。
モリスの物語は確かに終わったのだけど、生きていく。
それを読む人がいるかぎりは。
これは本好きが信じている奇跡のひとつなんじゃないかと思います。
2012年アカデミー賞短編アニメーション賞受賞
この作品、絵本に先駆けて映画が制作されているそうです。
2012年アカデミー賞短編アニメーション賞受賞。
調べてみると、『モリス・レスモアとふしぎな空とぶ本』というタイトルではなく、元々の英題『THE FANTASTIC FLYING BOOKS OF MR. MORRIS LESSMORE』として映画になっているようです。
イラストも美しく、本好きにはたまらない内容となっていますが、小学校低学年には少しテーマが難しいかもしれません。また、劇的に物語が変化するわけでもありません。
ゆっくりと雰囲気を味わいながら楽しむ種類の絵本でしょう。
絵本としてはページ数が多いので、一度で読み聞かせるには長く感じられるでしょう。
おとなが一番楽しめる内容とイラストかもしれません。