絵本の森

『おたのしみじどうはんばいき』──ボタンを押したら、ありえないものが出てきた……なにこれ……

あらすじ

のどが渇いた男の子がいました。
彼は自動販売機でジュースを買って飲もうとしますが……

ボタンを押すと、なんとありえないものが出てきてしまった!?

 

奇想天外な展開が面白い、一冊。

 

お楽しみという危険

今ではどこでも見かけることの多くなった、自動販売機。
なによりボタンがついていることによって、このボタンを押したがる子も多いのではなかろうか。お金を入れてないのに、通りがかりにぴこぴこ押して去っていく子も珍しくない。

これはそんな子どもたちを引きつけてやまない自動販売機をテーマにした幼児向け絵本である。

 

のどが渇いたなあ、と主人公の男の子は自動販売機でジュースを買って飲もうとする。しかし、この自動販売機、『なにがでるかおたのしみ』という、ギャンブル性の高い自動販売機だったのである……!

一つの商品だけが「なにがでるかお楽しみ」なのは見かけたことがあるが、全商品が「なにがでるかお楽しみ」とは……。
ふつうならなにが出てくるかわからない自動販売機でジュースを買おうなんて思わないのだが、この男の子は気にせず、なにが出るのかなーと「1」のボタンを押す。

 

お金も入れずに……。

 

お金もいれていないのに、「1」のボタンを押すと、なんと「いちご」が出てきたのである! しかもたくさん!
びっくりだが、まあ、数字の「いち」といちごをかけているのだろう。
これはそんな数字と言葉のだじゃれで進んでいく絵本なのかもしれない……。

男の子はいちごを食べながら、お金を入れずに、次に「2」を押す。
すると……

 

忍者が出てきた。たくさん。

 

ちょっと待て。
いったいどういうことなの……どうやって狭い自動販売機の中にいたの? 忍者ぎゅうぎゅうづめ?

 

男の子「うわあ、にんじゃだ! かっこいいな」

 

リアクション薄!

 

男の子はそうして次に「3」を押した。
すると……

 

サンタがたくさん出てきた。

 

怖い。怖いよ!
忍者といい、サンタといい、食べ物ですらないじゃんかよ!

 

男の子「わぁい、さんたが いっぱいだ」

 

リアクションやっぱり薄!

 

いっぱい出てきたサンタと忍者。これどうするの?と思っているうちに、彼は楽しくなってきたのか、早速「4」を押してしまう。
すると出てきたのは……

 

シラスだった。

 

何でもありすぎてツッコミが間に合わない。
もはやこれはツッコミ無用の絵本なのだ……。
男の子はなおも続いてボタンを押しまくった。
「5」「6」「7」「8」「9」……

 

「5」はゴリラが。
「6」はろくろくびが。
「7」は七福神が。
「8」ははちまきが。
「9」は救急車が。

 

わかってる。これはツッコミ無用の絵本なのだ……。
数字と言葉の組み合わせで出てくるものを決めているのはわかるけど、もう少しなんというか、自動販売機から出てくるのが可能なものを選んではどうかと思うのだが、この奇想天外さが笑いを誘っていいのかもしれない。
そもそも取り出し口からどうやって救急車が出てくるのか、考えただけで想像力が拒否するし。というより、そもそも忍者とかサンタとかどうやって出てきたんだという最初からのつまずきもあるわけだし。トンデモ発想絵本、これだからやめられない。

 

男の子、「10」のボタンを押す。
するとやっと、ジュースがたくさん出てきた。何のジュースかさっぱりわからないデザインの缶をしているが、男の子はジュースを飲めて人心地つく。

 

ふと、彼は気がついた。
まだ押していない、「1000」のボタンがあることに……。

 

トンデモ予感しかしない。
彼は「1000」のボタンを押した。
すると出てきたのは……

 

どこまでも続く線路!

そしてその線路を走る、汽車!!

 

忍者もサンタもゴリラも七福神も、みんな汽車に乗ってGo!!
自動販売機から出てきたもの全部汽車に乗って行ってしまった。
うん、そっか。行っちゃうか。
ずっといても困るだけだもんね、忍者とかサンタとかゴリラとかね。うまい退場の仕方だよね、うん。

 

残った男の子は……

あー、たのしかった。

相変わらずリアクション薄いな!

 

本当にお楽しみ自動販売機の名に恥じない、お楽しみ自動販売機だった。お楽しみというか、びっくり自動販売機というか……。

 

トンデモ発想が楽しすぎる絵本

本文は少なく、絵を見て楽しむほうに比重をおいた作品。
自動販売機から出てくるものは、数字に対応していたらなんでもありのようである。
読んでいる子どもたちもツッコミの嵐だろう。
読み聞かせが盛り上がりそうだ。
幼児向け。