絵本の森

『ほんとはスイカ』──一文字あるのとないのでは、ぜんぜん違うものになる

あらすじ

ある日、イトウくんが道を歩いていると、イカがやってきた。
イカだというと、イカは、自分は「スイカ」なのだという。どうも、「ス」を落としてしまったらしい。
その話を信じなかったイトウくんだが、イカと別れて歩いていると、落ちている「ス」を見つけた。
しかし、運が悪いことに、イトウくんはすべって転んでしまって、「ス」が頭にくっついて、なんと、「スイトウ」になってしまったのだ。

イトウくん、いったいどうなるの……?

 

言葉遊びがシュールな笑いを携えてやってきた!

そんな感じの楽しい絵本だった。

イトウくんが歩いていると、なにやらくねくねやってくるものがある。
何なんだ……と見てみると、「イカ」である。
あの海にいる「イカ」であった。

しかし、「イカ」は、「おれはスイカだ」という。
わけがわからない。
イトウくんもわけがわからなかったのだろう。どうみたってイカだ、というと、イカはなぜかハハンとと笑って事情を得意げに……かどうかはわからないが、説明してくれる。

「それは スを おとしてしまったからだ。
スイカから スを とれば イカ。
だから ほんとは スイカなのだ」

説明されてもやっぱり意味が分からない。
それはイトウくんも同じだったようで、こいつ意味が分からないという判断を下している。

自称スイカと別れて歩いていると、なんと、道ばたに「ス」が落ちていた。あっこれは、もしかしたら、イカの言っていた「ス」では……。

しかし不運なことに、イトウくん、すべってころんで、「ス」が頭にはりついてしまった。

つまりイトウくんは……

 

スイトウ、つまり「水筒」になった……。

 

え……
なにこれ、ホラー……。

 

そこに通りがかった、リサイクルショップのおじさん。
水筒を拾い上げて、売り物にしようとする。
道ばたに落ちている水筒、売り物にするんだ……。

おじさんは、水筒を持ち帰り、洗うように奥さんに頼む。奥さんは、その水筒を洗うのだが……

おくさんは イトウくんを たわしで ごしごし。
「ひゃっ いたい!」
「うるさい スイトウだね。しずかにおし」

え、いやいやいや、水筒がしゃべってる時点でなんかおかしくない?
おかしいよね?
事件の香りしない? するよね?

 

水筒になってしまったイトウくん、ごしごしあらわれて、「ス」と「ウ」がぺりっとはがれて……

 

「イト」に!

そして、排水口にするり。
下水道を流れていくうちに、「イ」と「ト」もはがれてきて……

えっ、まさか死……

 

と思ったら、なんと、イトウくん、透明人間になった。
透明人間になったイトウくん、なんとかかんとかして、ようやく、「イトウ」の三文字を取り戻し、人間に戻ることができた。

ふうー、一件落着。
一時はどうなることかと思った……。

 

そして余った「ス」。
これはもともと、自称スイカのイカのものだから、返してあげよう。

都合よく、八百屋でもめている声が聞こえてくる。
自称スイカのイカが、自分はスイカだと力説しているではないか。

イトウくん、イカの頭に「ス」をつけるてあげると……

自称スイカは、本物のスイカになった。

自称スイカは本当のことだったんだね……。

 

言葉のおもしろさをネタにした、おもしろい絵本。
透明人間になったくだりは無理があるような、深い意味があるような気もするが、なにも考えなくても楽しく読める。

しかし、一文字つくのとつかないのではぜんぜん違うものになってしまうのって、よく考えれば、示唆にみちみちているような気も……しないでもない。

 

言葉遊びの絵本だが

言葉遊びの絵本だが、ある程度言葉を習っていないと、おもしろさが半減する。
低学年向けだろう。