あらすじ
ちょっと不思議でちょっと怖い話を七つおさめた短編集。
つながりはほとんどないので、どれから読んでも楽しめる。主人公はどれも違う。
「まあだだよ」
古いお寺の境内で遊んでいたぼくら。かくれんぼをすることになり、主人公は鬼になってしまった。もういいかい、のかけ声に返事が返らなくなり……
「ハルという妹」
妹がほしかった主人公の女の子は、行きつけの公園でプラン子にのっていた子と、姉妹になる遊びをした。
遊びのはずなのに、お母さんは前々から妹がいたかのように振る舞い……?
「入り江の底で」
親戚のおばさんの家に遊びにいったぼく。そこで、入り江で子どもを助けようとした女の先生が行方不明になって見つかっていないという話を聞く。その入り江は、危ないから近づいてはいけないと言われている入り江で……。
「魔法の靴」
主人公の女の子は、下校中、視線を上にあげないことに決めた。なんだか視線をあげるのがイヤになったのだ。
視界に映るのは自分の黒い通学靴だけ……。
「変身」
友達は太っていて、よく食べる。クラスで話していたら自分まで格好悪いと思われそうなので、主人公はその友達にやせるよう言う。
それでも太ったままの友達。だけど、身のこなしが軽くなって、前と見違えるように。どうして……?
「ひびわれたフルート」
発表会でフルートの代表に選ばれた主人公の女の子。フルートの練習ができる場所を探していたら、フルートのすてきな演奏が屋敷から聞こえてきた。思わずその家を尋ね、さっきの音色のことを聞くと、その屋敷には志半ばで死んでしまった少女がいて……。
タイトルにちょっと偽りが……?
タイトルに偽りありである。
タイトルからして、怖い話の本なのだろうと判断したが、それは間違いなかった。間違いはなかったが、「ゾッとする」というのは正しくない。
短編が七つ入っているのだが、舞台となる町は共通なだけで話のつながりはない。怖い話らしい展開をするのは一話目の「まあだだよ」ぐらいで、ほかの話は怖い話のような展開をしつつも、最後は希望のもてる終わり方をするので、読後、後味の悪い思いをすることはない。
そのうえ短編なので、「ゾッとする」という感じを味わえる暇があまりないのだ。
怖いか怖くないかでいえば怖くない。お化けが出てくる話もあるが、全体的に平和に終わる。
それよりなにより、気になるのが、本文中に文字サイズを大きくした装飾を行っていること。
単語を強調するために使用しているのだと思われるのだが、読んでいて必要なのだろうかというところで、いきなり文字をでかくする。意図がくみとれない。
「ゾッとする」話のつもりで読んでいるのに、いきなり「オナラ」をでかでかと大きくしたりして、笑いをねらっているにしてもちょっと興ざめである。そもそも、怖い話を求めて読んでいるのに、「オナラ」を強調されても困る。
怖い話というより、なんだかちょっといい話、みたいなものが多く、たぶんホラーしているのは一話目の「まあだだよ」だけだと思われる。しかし残念ながら、最初と最後で人数が違うという怖い話は結構類話が多いので、目新しさがないのがちょっと残念だ。
ほかの話についてだが、あまり感情移入できない主人公が多いなという感じで、正直、最後は読むのがちょっと厳しかった。
いい話だな、という終わり方をするのは、六話目の「ひびわれたフルート」だろうか。志半ばで死んでしまった少女とともに、フルート演奏をして成功を収めるという話だが、これもあまり目新しい展開でもないのでちょっと残念である。
よく考えてみると、『7分間でゾッとする7つの話』というタイトルだが、7分間で一編読むのは無理なので、読み始めて7分で、という意味なのだろうか。
「ゾッとする」話がないと書いたが、本文中で「背すじに、ゾゾっ、ときて、心にさわやかな後味が広がる」話を用意する、と言っているので、コンセプト的にこの短編集は間違いがないのだと思う。タイトルにちょっとした語弊があるのだろう。
少し不思議で、さわやかな後味の短編を求めるなら、この本は向いているだろう。本文にも書かれているように、さわやかな気持ちで読み終えることのできる本だ。
ゾッとする怖い話というより
ゾッとする怖い話というより、不思議でさわやかな結末の話が多数収録された本だ。
中学年からが対象だろう。
夜、眠れなくなるほど怖い話ではないので、怖い話が苦手な子も楽しめると思う。まあ、怖い話が苦手な子が、このタイトルの本を手に取るとは思えないが……。
逆に、背筋がゾッとするような怖い話を求めて読むと、ちょっと肩すかしを食らうかもしれない。