あらすじ
世界の不思議に頭がいっぱいだった少女は、祖父と一緒に楽しく過ごしていた。
目にするものはすべて新鮮で、謎に満ちていた。
それを見守ってくれていた祖父。
しかしある日、祖父はいなくなってしまった。
その事実に、少女は心を瓶に閉じこめた。今だけ、傷つかないように。そう、今だけ……。
もうこれで安心。
心は傷つかなくなったけれど……。
悲しみのあまりに
悲しみ方は人それぞれとはいう。
悲しみそのものを、人と分かちあうことはとても難しいことだ。できなないことなのかもしれない。励まされることはあれど。
悲しみ、苦しみがあまり大きく、受け止めきれないとき、人はどうしたらいいのだろう。
それもまた、人それぞれに対処法を持っているのだろうが、その悲しみやつらさがとんなものかわからないうちは、心の悲しみや苦しさについて思いを馳せることはないのかもしれない。
本書は、喪失の悲しみから自分を守るために、心を瓶に閉じこめてしまった少女の話だ。
世界の不思議で頭がいっぱいだった彼女は、新しい発見に胸おどらせ、心をときめかせ、全身で世界を受け止めていた。広い世界を心開いて受け入れていた。そのうれしさや楽しさを、少女は祖父のそばで味わっていた。
しかし、彼女は祖父を失ってしまった。
その衝撃。悲しみ。圧倒的な苦しみ。
彼女は自分を守るため、心を瓶に閉じこめてしまった。瓶の中に心があれば、もう傷つくこともない。悲しむこともない。
でも、その代わりに、新しいものに感動する気持ちや、不思議に思う気持ちがなくなってしまった。
彼女のとった行動は、間違っていたのだろうか。
いや、誰にも間違っているとはいえない。
幼い彼女なりの、必死の自己防衛だったに違いない。
そうしているうちに、彼女は自分の心の入った瓶を、重たくてじゃまなものとさえ思うようになってしまった。
あまりに悲しい。そして痛々しい。
そんな彼女を救ったのは、過去の自分とそっくりの少女だった。
新しい発見、可能性。世界。
少女はそれら意味しているに違いない。無垢なままの昔の自分。
その昔の自分が、心を瓶に閉じこめてしまった少女を救う──なんと暗示的で、希望に満ちた展開だろう。
そうして、彼女はゆっくりと世界を周遊する。
彼女の知らない世界を、彼女はこれから眺めるのだ。
祖父の使っていた椅子に座って。
悲しみはきっと後からやってくるだろう。
傷つくことも増えるだろう。
でも、彼女はもう、心を瓶に閉じこめることはしないはずだ。祖父の肘掛け椅子があるかぎり。
心に痛く沁みいる
子ども向け絵本というより、おとな向けの絵本だろう。
喪失の悲しみにより、心を閉ざしてしまった女性の話だ。繊細なテーマを扱ったこの物語は、子どもよりおとなに向けて描かれているように思う。
対象は高学年から。しかしおとな向けを推したい。