絵本の森

『おしりだよ』──ある日突然、おしりがしゃべった

あらすじ

ある日、むーちゃんがお風呂場で体を洗っていると、おしりもちゃんとあらってほしいと声をかけられた。
なんと、おしりがしゃべっていたのだった。

言われたとおりにおしりをきちんと洗うむーちゃん。
それからというもの、むーちゃんとおしりは仲良くなっていくのだが……。

 

おしりとブランコ

主人公、むーちゃんが風呂場で体を洗っていると、おしりが話しかけてきた……というところから物語が始まる。

心温まる、おしりとの会話。
むーちゃんのそばにいつでもいる、大親友。
おしりは、むーちゃんのなくてはならない友達になっていくのである。

おしり。
思えば、大切な体の一部である。
その一部が話しかけてきたら……考えただけでもおもしろい。

むーちゃんがおしりとの交流に心を傾けるのもわかる。
なぜか、幼児期では「おしり」は笑う単語になっているが、本書のおしりはとてもいいやつで、むーちゃんのかけがえのない友達になっていく。ひなたぼっこも一緒、遊ぶときも一緒。パンツ選びで時々ケンカもするけれど、むーちゃんにとって、おしりはベストフレンド。

物語はそのまま平和に終わるかと思えたが、そうではなかった。
ブランコ。
むーちゃんはブランコを一人でこげない。

「あのね、ぼく ぶらんこ こげないんだ」
「だいじょうぶ。むーちゃんには ぼくが ついてる。
いっしょに れんしゅう しよう」

おしりに励まされて、むーちゃんはブランコに挑戦する。
失敗するけど、おしりに励まされて、むーちゃんは一生懸命に練習するのだ。
そして、むーちゃんはブランコをこぐことに成功する。

ブランコをこげた。
むーちゃんは、ひとつ成長した。
その成長とともに、おしりはしゃべらなくなるのだ。
しゃべるおしりから、しゃべらないおしりに。

でも、むーちゃんはそのことで泣いたりしない。
おしりはしゃべらないけど、ずっとそばにいるとわかっていたから。

「ありがとう おしり。これからも よろしくね」

むーちゃんのこの言葉に、成長を感じられてすがすがしい。

 

成長とおしり

おしりを笑いのネタに使わず、いい友達として登場させたこの一冊。
読みやすい文章で分かりやすく、むーちゃんの成長を感じさせる。
幼児、低学年向け。
お話を楽しむタイプの絵本だが、絵もかわいらしい。
文章の量はそこそこあるが、下読みしていれば読み聞かせ映えするだろう。

この作品を読んだとき、乙一氏の『ボクのかしこいパンツくん』を思い出した。
こちらはちょっと対象年齢が高めであるが、パンツがしゃべるという話である。