文章がないので内容は想像するしかない
木炭で描かれた、文章のない絵本。
木炭で描かれているので、黒一色である。
文章がないので、絵を見ながら内容を推し量っていくしかないのだが、これがなかなかに難しい。また、細部まで書き込むような画風でないため、よく見ないと何を描いているのかわからないこともある。そのため、ストーリーが難解だ。
最初は、大きなたまごが地面に立っているところを、米粒ほどの人間が見つけるところから始まる。
たまごが恐ろしくでかいのである。……いや、たまごはふつうのサイズで、見つけた人間と思われるものが実は人間によく似た小人という可能性も捨てられなくはないが、とりあえずここは、とても大きなたまごという解釈にしておく。
地面にそびえ立つ、大きなたまごを見つけた人間は、ほかの人間に知らせて、一気に人だかりができる。見物客といったところだろうか。
それから、たまごのまわりにビルが建ったり、たまごの頂点に何か設置したりしはじめる。……ひとつの観光スポットとなったのだろうか? よくわからない。
地面からたまごの頂点まてのロープウェイができ、たまごはライトアップされ……人間の商魂のたくましさや、人間の性質を見たような気持ちになる。
そこに暗雲を立ちこめる空、空のかなたから舞い降りてくる巨大な鳥。鷲のように見える。とにかく、友好的には見えない鳥が現れる。そしてたまごを抱えるようにする。……親、なのだろうか? しかし、親鳥かと思われた鳥は飛び立っていき、たまごからひなが生まれる。
ひなはしばらく生きたが、死んでしまったようだ。ひなのまわりに戦車が描かれているから、ひょっとしたら殺してしまったのかもしれない。
動かなくなったひなを見る人々の顔に、歓喜や安堵の色はない。
ひなの亡骸を車で引きずっていく人間たち。
いったい、あのたまごはなんだったのか。あの巨大な鳥は何だったのか。答えがはっきりしないままに、再び、あの巨大な鳥が現れる。このとき、地面に降り立つ姿が十字のように見えるのは何かを暗示しているのだろうか。
次々と降り立つ、巨大な鳥たち。鳥たちは再び、たまごを産み落として去っていく……。
そこで、この絵本は終わる。
この絵本のメッセージは、読み手によって変わってくるだろう。
私は、人間が未知のものにしてとれる手段の少なさを思い、ひなを殺してしまうという手段について感じるものがあった。人は人の尺度でしかものをはかれない。孵ったばかりのひなが愛らしく描かれていればいるほど、それを殺してしまった人間たちの結論を再考できなかったものかとも思う。
ラストの場面で、鳥たちは何を思って、たまごを大量に産み落としていったのか。そこからまたひなが孵ったら、人間たちはそのひなを殺していくのか。問題を提示されているような気持ちになった。
この絵本は、わかりあえない残酷さを描いたのかもしれないと思った。
黒一色の木炭絵
黒一色の木炭絵でのみ進んでいく絵本。文章はいっさいない。
読み聞かせはできない。
内容が難しく、高学年からが対象だろう。おとな向けといっても差し支えはなさそうだ。