火曜日の夜、「それ」は起こった。
絵本紹介でたいてい取り上げられる、『かようびのよる』。
不思議な魅力に満ちた絵本である。
それは、火曜日の夜八時ごろに起きた。
蓮の葉に乗ったカエルが、ふわりと空中に浮かび、飛んだのである!
確かな筆致で描かれる、この奇怪な出来事の始まり。
想像力が刺激されるというレベルではない。私たちは奇怪な出来事を目撃しているのである!
空飛ぶカエルたちを、口をあんぐりあけて見つめる魚たち。私たちも同じような顔をしているかもしれない。
続々と空を飛び、空中を舞う蓮の上に乗ったカエルたち。夜空を埋めつくさんばかりだ。異常事態である。
カエルの軍団は、我が意を得たりといわんばかりのしたり顔で侵攻を続ける。
被害者がいないだけよかったというべきか。
空飛ぶカエルの軍団は止まらない。いったい、どこを目指しているのか……。
作中に文章は極端に少なく、確かな画力で描かれた怪異を目撃するのがメインとなっている。奇怪な出来事を描ききった画集ともいうべきだろうか。
そして、奇妙な怪異は、夜明けとともに魔法が解けるようにして収まってしまう。それまで空を飛んでいた蓮の葉は急に力をなくし、カエルたちは墜落していく。
ご機嫌で空を飛んでいたカエルたちは、池に帰って、怪異は終わってしまうのだ。
あとはもう、なにもなかったかのように日の出を迎えるだけ……。
そして、大量に道ばたに落ちている蓮の葉を見て、刑事が首をひねるのである。読者もなぜあんな事件が起きたのか、首をひねるしかない。
そして、再び、次の火曜日──
文章が極端に少なく
文章がとても少ないので、読み聞かせに向かない。
不思議な現象の目撃者となるのを楽しむ絵本である。
現実には起こり得ないことも、絵になれば起こり得る。
カエルたちの得意そうな顔を見つつ、この不思議な現象が収束するまでを目撃しよう。
絵を楽しむ絵本なので、幼児から楽しめるが、リアル調の絵はおとなでも楽しめるだろう。むしろ、年齢が上がってからのほうが、この絵本に親しみを持てるかもしれない。