あらすじ
ムッシュ・ムニエルというヤギのような姿をした魔術師を主人公としたお話が三つ収録されている。
三つの話につながりはなく、どれから読んでも支障はない。
「ムッシュ・ムニエルをごしょうかいします」
魔術師の仕事が忙しいので、弟子をとろうと考えたムニエル。
目を付けた子どもをさらおうと、持ってきた瓶に魔術をかけます。
しかし、さらってきた子どもは……。
「ムッシュ・ムニエルとサーカス」
ムニエルがパイに乗って、空を飛んでいると、遊園地の上に通りがかりました。
よそ見をしていたムニエルは落下してしまい、運悪く、サーカスのマジシャンとぶつかってしまいます。
このままではサーカスでマジシャンがマジックを披露できないと言われ、ムニエルは代わりに自分が出ると申し出ます。
しかし、最初はうまくいっていたムニエルの魔術が次第に変な方向に暴走を始めて……。
「ムッシュ・ムニエルとおつきさま」
町を歩いていたムニエルは、街角で悲しい歌を歌う女性を見かけ、魔術を使いたくなってきました。
ムニエルは歌声を敏につめ、空に打ち上げました。
すると、夜空に浮かんでいたお月様が落ちてきました。その月をそろって鞄にいれたムニエルでしたが、その鞄を謎の男に奪われてしまいます。
犯人は、双子の研究者でした。
月を調べたいというので、少しだけならと貸すムニエルでしたが……。
不思議で奇妙な魔術師のお話
ムニエルという、ヤギのような魔術師を主人公とした絵本。
話が三つ収録されている。
「ムッシュ・ムニエルをごしょうかいします」は、魔術師の仕事が忙しいので、子どもをひとりさらって、弟子にしようと考えるムニエルの話。
早速、ある子どもに目を付けたムニエルは、瓶に魔術を使い、子どもをさらおうとするが、失敗。
落ち込んだムニエルは、
ああ、しっぱいだった。
こんなまじゅつで
しくじるようでは、
まだまだ でしをもつのは
はやすぎるのかもしれん。
……と自省モード。
そして町をさっていく……という話。
正直、お話としては盛り上がりがあまりなく、淡々と進んでいく印象を受ける。魔術の失敗も、本人の力量によるところではなく、ただ一人子どもをさらう予定のつもりが、二人さらってしまったというだけのことなのだが、彼は上述の通りに、猛反省するので、神経質というか思いこみが激しそうな感じがする。
そもそも、弟子をとります、とふつうに声かけをしていけばよかったのでは、と思うのだが……さらうという手段が物騒だ。
なによりこの絵本が魅力的なのは、絵の独特さだろう。描かれる風景も独特の世界観に彩りを添えている。壁に貼られた破れたポスター、毒々しいネオン。子ども向けに描かれた絵本の絵にしては、哀愁が漂っている。
ムッシュ・ムニエルのキャラクターデザインも際だっており、焦点のあっていなさそうな目は魔術師という不思議な職業を表しているかのようだ。三つの話のうち、タッチが違う二つ目の話をのぞき、すべてムニエルの目が焦点があっていないように描かれている。
「ムッシュ・ムニエルのサーカス」では、ムニエルが魔術をを使ってサーカスに出る、という話。
魔術を扱えることは扱えるのだが、結果をうまくコントロールできないらしく、次第にハチャメチャになっていく。
この話はコマ割を多用しており、マンガのような体裁になっている。会話もすべて吹き出しで描かれ、地の文が極端に少ない。
このハチャメチャな魔術の暴走っぷりがおもしろく、エンディングはまるでギャグマンガのようだ。
三つ収録されている話の中では、一番しっかりした話の展開をしているように思う。
「ムッシュ・ムニエルとおつきさま」は、歌声を瓶に入れ、魔術を使って打ち上げると、月が落ちてきたというお話。その月を双子の博士に奪われ、困ったムニエルは、空に月をもどすべく、魔術を使う。すると、夜空が月だらけに……と、少しファンタジックな内容だ。話のオチはムニエルらしく、ちょっと空とぼけた雰囲気を残しながら、明るく終わる。
絵のタッチは最初に収録されている「ムッシュ・ムニエルをごしょうかいします」とほぼ同じで、独特の目の書き方をしている。
いずれも独特で個性ある世界観を形成しており、特に絵に顕著。
不思議で、ちょっと奇妙な印象の絵柄だ。
個性が光りまくる、奇妙なお話
全編を通していえるのは、奇妙だということだろう。
不気味でもなく、怖いわけでもなく、奇妙な魅力があふれている。
絵が個性的なので、好みが分かれるところであるが、不思議で奇妙な雰囲気に浸りたいときにはぴったりだ。
読み聞かせは、ページの構成上、難しいだろう。
低学年向け。