あらすじ
昔々のお話を ノリノリ語調でブラックに
パロディしてみた 短編集
『へそまがり昔話』とあるが、へそまがりの域を越えている感も拭えない、ブラックかつシュールなパロディ集。
シンデレラにはじまり、ジャックと豆の木、白雪姫と七人のこびと、三匹のくま、赤ずきんちゃんとおおかみ、三匹のこぶたを、ブラックに、かつへそまがりに大胆にパロディ。
シンデレラはホームヘルパーのアルバイトをして、競馬でもうけるし、三匹のくまは女の子は食べちゃうし、赤ずきんはオオカミをピストルでズドン。
やりたい放題、し放題。
ここまでくれば逆に痛快?
ノリノリでたくさん人がしぬ。
へそまがりというかはじけちゃったというか……
語り継がれる童話を、「へそまがり」に書いた児童書。
訳者はこの本を「へそまがりバージョンでかきなおしたもの」つまり「パロディって言うんだよ」と言っているが、全編読んだ感想としては、原型がかろうじて残っているブラックパロディといったところだ。
みんながたいてい知っている童話の主人公に、思い切った脚色を施してシュールなパロディを行っている。
訳者によると、原文は「「ライム」っていうリズミカルな英語で書かれてた」とのことで、全体を通して、リズミカルにテンポよく日本語に訳されている。読んでいると、ヒップホップの歌詞を読んでいるような錯覚に陥る。
読んでいるとなかなかおもしろくなってくる。内容を考えると、麻痺してくるというのかもしれないが……。
パロディのほうだが、これは原話の残酷さをオマージュしているのか、内容はちょっと過激である。
シンデレラはミニスカートでミラーボールのディスコで踊り狂い、王子はシンデレラの姉たちを「首チョンパ」する。本文に首チョンパと出てくるのである。だいぶ勝負に出ているなとよけいなことを考えてしまう。
首切り役人を 呼び出して、姉さんの首を 首チョンパ。
姉さんの首は 空に舞い、小鳥もびっくり ピーチクパ。
ノリノリだが、非常にブラックである……。
白雪姫は、お城から連れ出され殺されそうになったのを逃れ、そのまま自活。七人の背の低い男たちのお世話をするホームヘルパーのアルバイトを始める。そして競馬で儲けにもうけて安泰した生活を送る。
ぜったい勝つ馬を 知ってるならば
競馬も けっこう やくにたつって。
児童書でギャンブルを扱っているのなんて、そうそうないかもしれない。
赤ずきんに至っては最悪だ(この本にとっては「最悪」はほめ言葉になるかもしれない)。なんといっても、ズロースに挟んだピストルで、オオカミを撃ち殺すのだ。そして彼女は赤ずきんなんてダサい格好はやめて、立派な「毛皮」のコートを着ているのだとか。その毛皮の出所なんて……ブラックもブラック、はじけたパロディっぷりである。
この赤ずきん、三匹のこぶたにも登場し、レンガの家のこぶたに請われて例のオオカミを撃ち殺したあと、ついでにもう一着毛皮のコートを作り、おまけ豚皮の鞄も手に入れたとか。……もうだめだ、この赤ずきん。
たいていの話では、いつでも誰かが死んでいるし、その死もヒップホップ調でポップに扱われているし、これ、一体、誰向けの本なんだ……となってくる。
このブラックなコメディ、おもしろい人にはおもしろいだろうが、合わない人にはとことんダメな内容だろう。
子どもに与えるのに、一瞬考えてしまうようなブラックな世界が広がっている。
だからなのだろうか、訳者の前書きと後書きが両方入っている。子どもに向けたかみ砕いた文章で書かれた前書きと後書きだが、うーん、それでも本編のブラックさはオブラートでは包みきれないような……。
誰向けなのか考えるほどのブラックさ
コメディなことはコメディだが、それもブラックコメディというジャンルに属するこの児童書。
人が食べられる展開はザラにある。だが原話にも残酷さがあるといえばそうなので、そこまでショッキングではないかもしれない。
おとな向けにも思えるが、読んで楽しめるとしたらティーンズだろう。高学年でも楽しめるかもしれない。
ただやはりかなり癖があるので、勧めるときは一考したい気がする。