あらすじ
江戸の上野は花の山
江戸の上野は花の山
春のかすみにさそわれて
蝶もひらひら 犬はぶらぶら
これから始まりますのは、『花ふぶき江戸のあだうち』。
舞台の上で役者が舞います。
犬丸左近が桜の花びら舞う中で歩いていると、なんと女中のスズメが倒れている。
助け起こして子細を聞いてみれば、父の仇を打とうとしたのはいいが、いざ父の仇を前にすると、その恐ろしさにすくみあがって気絶してしまった。父の仇を打てず途方に暮れているという。
犬丸左近は、助太刀を申し出る。
そして、いざ、仇と対峙したのだが……。
ちゃんばらあり、お涙ちょうだいありの大衆演劇風絵本!
敵討ち、そして助太刀、最後には
表紙からして、ほかの絵本とは一線を画しているこの本書。絵本で「あだうち」なんて言葉を目にする日が来るとは思わなかった。
中身は、見た目通りの歌舞伎風、大衆演劇風。
登場人物がみんな着物を着た動物であることが、絵本らしいといえば絵本らしいか。
その絵にしたって、昔風の絵筆で描かれた和風漂う絵である。
内容のほうも王道直球な内容で、スズメの女中が父の仇を打とうとするのだが、いざ打とうとしたところその恐ろしさにすくみあがってしまい、敵討ちもかなわない。通りがかった犬の犬丸左近、「そつじながら せっしゃが すけだちをいたそう」と申し出る。そして仇を打とうとしたその瞬間、あいや待たれいと死んだと思われていたはずの女中の父が声を上げる。
実は仇と思っていた相手は命の恩人で……と、子ども向けにシンプルになっているが、その王道すぎる内容に好きな方はにやりとする仕様となっている。
黒子がいたり、舞台上にモブがいたりと、すべてが演劇仕立てとなっている。
華々しい舞台上の桜の木、舞い散る花びらが美しい。
この世界もありだなとしみじみ感じ入る。
「せめてお名前を…」の台詞に、思わず待っていましたという思いに駆られる。
もちろん、「せめてお名前を…」と言われて、犬丸左近が名前を名乗るわけがない。絵本はそこで終わりなのだが、心の中で、名乗るほどの者じゃござんせんと続けたくなる。
どこもかしこも、いかにもな要素と展開がちりばめられていて、歌舞伎、大衆演劇な世界を味わえる。
ほかの絵本とはひと味違う作品だ。
話は分かりやすいが……
話は分かりやすいのだが、ほぼほぼ台詞だけで話が展開するため、歌舞伎風の言い回しに慣れないと物語に入り込みにくい。
敵討ち、ちゃんばらなど、日本人が好んだテーマが盛り込まれているが、あえて絵本でそれを行った意図がちょっとわからない。おとな向け絵本にしては、話がシンプルすぎるし、子ども向けにしてはちょっと難しい。人を選ぶ絵本だろう。
対象年齢はたぶん低学年……なのだろうが、好みが分かれる。
読み聞かせにはあまり向いていない。