あらすじ
チーターが露店を開いている。
彼の店は暇だった。
あるとき、お客さんが一人やってきて、チーターにこう言った。
あなたの黒い模様をください、と。
チーターは驚いたが、せっかくなので、黒い模様を売った。
チーターの身体には黒い模様の跡が残るばかり。
暇を持て余していたチーターは、さまざまな色ペンで、黒い模様の跡を塗りつぶしてみた。
派手派手チーターのできあがりだ。
すると、お客さんがたくさんやってきて……。
独特な世界観で描かれる、どことなくシュールなチーターの話
独特の世界観である。
チーターが、店を開いている。
動物たちの街の中で、ではない。
人間たちが普通に暮らしているような街で、チーターを露店を出している。
街の人々はそれについて驚いたり、怖がったりしない。当然のものとして、チーターを受け入れている。他の動物がどういう扱いなのかはわからないが、イヌの散歩をしている人がいたから、このチーターだけが特別なのかもしれない。
そして、このチーター、実に人間くさい。
露店を開いてみたのはいいものの、客が来なくて暇を持て余している。
何を打っているのかと思えば、これがまた普通の人間の店みたいに、雑誌や雑貨なのである。チーターに関するものは何もないようだ。
暇を持て余しているチーターの前に、一人の客が現れる。
その客は、チーターの黒い黒い模様をくれという。
びっくり!
でも、せっかくだから うることにした。
彼は自分の体の黒い模様を売ってしまう。
彼の身体には模様のあった跡が残り、黒い模様を買った客は身体に黒い模様をつけて行ってしまう。
もはやそこにはファッショナブルとかスタイリッシュとか、そういうものの高レベルのセンスが介在しているとしか思えない。
黒い模様を売ったチーターは、暇だったので黒い模様の跡にペンで色を塗った。
かくして、彼は、いろんな色の水玉模様をした、派手なチーターに生まれ変わったのである。
この大変身が、街の人の気をひいた。
いい宣伝となって、店は繁盛。
何がどう影響するか、分からない世の中である。
いや、そもそも、チーターの黒い模様が取り外し可能だったことにまず驚くべきだったような気もするが……。
あらかた売り物も売れたので、チーターは店じまい。
でもそこに、また一人の客がやってきて、こう言った。
「じゃあ、わたしは あなたの きいろを いただこうかしら」
さすがに体の色は売ることはできないだろう……と思っていたら、かれは、再び、「せっかくだから」黄色を売ってしまうのである。何がせっかくだからなのか、良く分からなくなってきた。
黄色を売ってしまったチーターは、真っ白な身体に派手派手な水玉のある、よく分からない生き物になってしまった。
さすがに彼は恥ずかしくなり、身体に売れ残りのシールをあちこちにぺたぺた貼り付けた。
あっ!
これって ちょっと いいかもね。
本人はちょっといいかもと思っているが、絵的にはすごい状況である。
しかし、いろんな状況に面しても動揺しないチーター、実は器がデカイのかも。
アイデンティティを「せっかくだから」で売ってしまう潔さもすごい。
なるようになるという生きかたを見ているようである。
そうして彼は、体中にシールを貼り付けた、派手派手チーターのまま、また露店を開くのである。
……彼の店は再び、暇そうだ。
不思議な世界観で淡々と綴られる
トンデモな展開をするのだが、結構淡々と描かれるため、これはこういう世界なんだ……と妙に説得力がある。
思いも寄らない展開を楽しむ絵本だろう。
幼児、低学年向け。
オチらしいオチがないまま終わるので、読み聞かせするときは要注意。