あらすじ
市長のコワフは、いばりんぼうで、すぐ人を怒鳴りつける。
いつものように気に入らないことがあって人を怒鳴りつけていたら、突然、自分の顔から鼻がなくなっていることに気がついた。
鏡がおかしくなったのだと思い、違う鏡を探しに行くコワフ。
パン屋に入って、鏡に自分の顔を映してみたら、本当に鼻がなくなっていた。
混乱しているコワフの前で、一つのパンからコワフの鼻がむくりと出てきた。
鼻は、礼儀正しく挨拶をした。
呆然としているコワフを尻目に、鼻はパン屋から出て行ってしまう。
あわててコワフは自分の鼻を捜しに出るが……。
鼻が一人歩きする
リアル寄りで繊細なタッチの絵なのに、まず、表紙に描かれた鼻型の雲に笑いを禁じえない。
読み終わったとき、鼻というものは一体なんだったたろうかと考えずにはいられなかった。それほどに、絵にインパクトがある。
とにかく、鼻なのである。
人に威張ってばかりの市長のコワフから、ある日突然、鼻がなくなった。
探し回ってようやく、鼻がパン屋のクロワッサンの中から出てくる。
きちんとした格好の鼻は、イギリスの紳士のようだ。
「これは失礼。パンのにおいが大好きなので、中でくつろいでおりました」
そういってクロワッサンの中から出現する鼻。鼻なのである。異様な光景のはずなのだが、丁寧な言葉で話し、適度に愛嬌のある擬人化に成功した鼻は、物腰柔らかな紳士のようだ。怖いというより、不思議な光景に見えるのはそのせいだろう。
鼻がなくなって探し回っているコワフを、顔のついた道具達(ポットやフライパンなど)が嘲笑うかのようにこっそり眺めているのが面白い。
しかも、町長でもあるコワフが、鼻がなくなったと騒いでいるのにだれも心配しないところが、コワフの人望のなさが現れ出ているところだろう。
人ごみにまぎれてしまった自分の鼻を捜す余り、見るものみんなが鼻に見えるコワフ。
その様を見事に描いたページは圧巻だが、見ているこちらも鼻ってなんだっけ……と軽く混乱してくる。
鼻との追いかけっこは続き、コワフはついに怒って、自分の鼻を指名手配に。
情報を広く呼びかけるのだが、日常いばりまくっていたコワフに人望はなく、情報なんてひとつも集まらない。そればかりか、鼻は紳士的で、困っている人を助けてやったり、礼儀正しかったので、町の人たちは鼻を見かけてもコワフに知らせることはしないのであった。
コワフ、相当に嫌われているなぁ……。
かくして市長コワフの鼻は、その姿の異様さを恐れられる事無く、皆に受け入れられ、人気者に。
反対に、市長コワフ自身は人望のなさを見せ付けられる始末……。
新しい市長選に立候補しても、コワフの演説なんてだれも聞いちゃいない。鼻ばかりが注目を集めている……。
文字通り、天狗の鼻を折られたコワフは、失意のうちにようやく、自分はいばりくさった嫌な奴だったと悟るのだが……。
最後のオチはちょっと強引さを感じられるが、ハッピーエンドで後味が悪くない。
でもどうして突然、鼻が一人歩きし始めたのか、その理由は書かれていない。
市長であることに天狗になって、えらそうだったから、「鼻」がどこかへ行ってしまったのだろうか……。
しかし町中鼻で溢れかえっている様は、本当に圧巻である。
この作品は、ゴーゴリの「鼻」を元にして創作された絵本であるらしいが、元の「鼻」については読んだことがないので、また時間があるときに読んでみたい。
インパクトある鼻の総出演
絵のインパクトがすごいのでそちらに目が行きがちだが、話の内容も予想外の奇妙さである。
ある日突然、顔から鼻がなくなって、その鼻が一人で街中を歩いているのだから。
一ページあたりの文章の量はさほど多くないのだが、小説のような文体なので、読むには低学年、中学年ぐらいが対象だろう。
幼児にはちょっと難しい。