あらすじ
ある日、図書館に、うぐいす色した表紙の本が入ってきました。
うぐいす巣路の本はとても人気者で、いつでも誰かが読んだり、借りたりしていました。
しかし年月が過ぎると、うぐいす色の本は、新着コーナーから違う棚に移り、そして次第に読まれなくなってしまいました。
あるとき、ある女の子が、そのうぐいす色の本を見つけました。
彼女はその本を愛読し、大切にしました。
しかしあるとき、彼女と本は離れ離れになってしまい……。
本と人の、素敵な出会い
思い出の一冊というものがあるだろうか。
すぐにタイトルをあげられる人は幸いだ。
私は、すぐにあげられるタイトルがないが、記憶にいつまでも引っかかっている本の気配だけは感じている。
タイトルも装丁も思い出せないが、確かに数冊、心のどこかで残っている本の気配だ。
『さみしかった本』は、そんな存在の有無を再確認したくなる、優しい絵本だった。
この絵本には、うぐいす色の表紙をした本が出てくる。
この本は図書館に置かれていて、最初、新書としてとても人気があった本だった。だが月日が流れるうちに、新着の棚から移動になり、手にとってもらえる回数もめっきり減ってしまう。
そんな中で、本は一人の少女で出会った。
彼女と本は、すぐに打ち解けた。
彼女は本に慣れ親しみ、本も彼女との時間を楽しくすごしたに違いない。
この絵本でおもしろいところは、絵本が擬人化されていないところだと思う。だから、絵本は一言も発しない。本当に人と本として、描かれているのだ。
そして、ひょんなことから、少女と本は離れ離れになってしまう。
少女は本を探すが、時は既に遅し、本は地下の倉庫へ。
少女と本は長い年月を離れ離れで過ごす。
その間、少女は違う本を読み、だんだんとうぐいすいろの本のことを思い出さなくなっていく。
月日とはそんなもので、どんな出来事も記憶の中で薄れていってしまうものなのかもしれない。
最後には、印象に残った場面しか思い出さなくなって。
倉庫に置かれた本は寂しさを耐え続けた。
そして、ついに、本は彼女と再びめぐり合えたのである。
本の譲渡会で。
少女は、久しぶりに出会った本に触れて言う。
「ぜったい みつかるとおもった!」
思い出すことが少なくなっただけで、少女は本のことを忘れたわけではなかったのである。
うぐいす色のこの本が、少女の心にどれだけの影響を与えたか。
これは、本と人が引き合うという夢を描いた絵本だ。
「あなたがくればいいな、とおもっていたのよ!」と、としょかんの人は いいました。「この本は、ずっと あなたを まっていたのね。どうぞ もってって。ただでいいわよ」
それから、本のひょうしにかいてある ちいさな女のと あしぎなキノコをみつめて いいました。「じつは わたしもね、子どものころ この本が いちばんすきだったの」
本は、人によって感じ方が違う。ある人には最高の一冊でも、他の人からすればそうでないときもある。
でも、本好きな人は、こんな奇跡を夢見ている。
人と本が引き合って、不思議で素敵な偶然が起きるのだと。
温かみのある絵柄が美しい
温かみのある絵柄が心をじんわりと温めてくれるよう。
本好きのかたのための絵本。
文章の量からして、低学年から中学年が対象だろう。
または、おとな向けかも。