絵本の森

『うれないやきそばパン』──おいしい味の評判は、年月とともに根付いているもの

あらすじ

昔ながらのパン屋さんのパンが最近あまり売れなくなった。
なぜかというと、近くに新しいパン屋さんができたからである。

昔ながらのパン屋さんで売られていたパンたちは、もはや自分たちは売れないのだと諦めムード。
そんな中、きちんと正座して、売れるのを待っているパンがいた。焼きそばパンのピョンタである。

昔ながらのパン屋さんは、このままではだめだと思い、新しいパン屋さんで売られているような、デニッシュパンを作り出した。
このデニッシュパンが当たって、お客さんがまた来るようになったが、買われていくのはこのデニッシュパンだけ……。

パンのみんながしょんぼりしているとき、やきそばパンは違うことを考えていた。
自分がいなくなれば、デニッシュパンを置く場所が増え、お客さんも増える……だから、自分はこの店を去ろう。

そう考えていたそのとき……。

 

長く続けば、歴史ができる

表紙のインパクトがすごい。
パンに目鼻を書き込んで、擬人化するのはよくあることだが、やきそばパン、どうしてそこに目と口を書き入れたの……。

このやきそばパンのインパクトがすごくて、話がなかなか頭に入ってこない。
それほどの存在感があるやきそばパンだ。
やきそばパンのほかに、スマホのようなものをいじる食パンとか、インドめいた格好のカレーパンとか、いわゆるかわいい路線を越えたパンたちが登場する。
かわい……くはないが、妙に味がある外見をしていて、憎めない。

 

昔ながらのパン屋さんが、最近できたハイカラなパン屋さんに客を取られてしまい、パンが売れなくなってしまった。
嘆くパンたち。
みんなが諦めモードになっても、やきそばパンはきちんと正座をして、売れる日を待っている。

そんな中、昔ながらのパン屋さんは敵情調査で、ハイカラなパンが売れているのを発見する。
昔ながらのパン屋さんは、現状打破と、ハイカラなパンを作り出した。
デニッシュにクリームやフルーツが乗ったハイカラパン、名前はポール!

ポールのテンションはアゲアゲで、明らかヤバイ感じなんだけど、ハイカラダンサーパンとして、君臨する。

ポールのおかげで、お客さんは増えたが、昔ながらのメンツは売れない。
買われていくのはポールだけ……。
昔ながらのメンツは落ち込むのだが、やきそばパンは落ち込むどころか、

「おじいさん(昔ながらのパン屋さんのこと)、よかったね。やっぱり おじいさんの
 つくるパンは、とっても おいしいんだ」

……と、前向き。
そして、やきそばパンは、自分が出て行けば、もっとポールを置くことが出来ると考え、店を去ろうと心に決める。
なんと、健気で優しいパンなんだ……。

しかしそのとき。

「まだ あったのね」

そう言ってトングでつかまれたのは……やきそばパン!
そして、ぱくり!(お金払わないの!?というツッコミはナシの方向で…)

「このあじよ おもいだすわ」

そう感動するのは、一児の母親らしき女性。
そう、昔ながらのパン屋さんには、歴史という強い味方がいた。
子どもの頃に通っていた子たちが、母親となって父親となってとにかくおとなになって……昔ながらのパン屋さんのパンのおいしさを伝えていく……。
思えば、長く続けてこれたのだから、パン屋さんの腕は確かなはずなのである。

そうして、昔ながらのパン屋には、小さい子どもたちがお客さんとなってやってくるようになったそうな。

 

最後のページの、ずらりと並べられたパンたちには、圧巻である。

 

擬人化されたパンたちが楽しい

擬人化の仕方がなんだか斬新なので、人によっては好みの分かれる絵柄であるが、読んでいるうちに愛嬌が感じられ、親しみを覚えるだろう。
幼児、低学年向け。