あらすじ
つばさは、おばあちゃんが大好きだった。
学校から帰ると、一番におばあちゃんの部屋に会いに行く。
怒られたときも、おばあちゃんに頭を撫でてもらって、「大丈夫だよ」と言ってもらうのも好きだった。
しかし、おばあちゃんが、「忘れてしまう」病気にかかって、つばさはだんだんとおばあちゃんを避けるようになってしまう。
大好きだったおばあちゃんが変わっていってしまう……
おばあちゃんと向き合えないまま、おばあちゃんの病気は進んでいく。
あるとき、おばあちゃんが出かけたまま、戻ってこなくなって……。
昨日覚えていたことが、今日には忘れていってしまう……
不覚にも泣いてしまった。
絵本で泣いたことは数えるほどしかないのだけど、この絵本には泣かされてしまった。
主人公のつばさは、おばあちゃんが大好きだった。
学校から帰るといつも、おばあちゃんの部屋に行く。そして一日あったことを話す。お母さんに怒られたときも、おばあちゃんに「大丈夫だよ」と頭を撫でてもらうのが好きだった。
それなのに……
おばあちゃんが、「忘れてしまう」病気にかかってしまったのだ。
そう、これは、認知症を患った祖母を、つばさ少年視点から見たお話なのだ。
症状が進むにつれ、おばあちゃんは出来ていたことができなくなっていく。そんなおばあちゃんに、つばさは近寄らなくなる。大好きだったおばあちゃんが別人のようになってしまうのがきっと怖かったに違いない。その過程が繊細に、しかし偽りなく描写されていて、胸が痛くなっていく。
人に迷惑をかけるまでになってしまったおばあちゃん。つばさはもう、おばあちゃんの部屋によりつかない。
それを情がないとは非難できない。戸惑い、混乱し、見なかったことにするのが、一番自然な反応なのではないか。それまで慕っていた人が、ゆっくり様変わりしていくところを見るのはあまりにも苦しく、辛い。
どうして?
なんで?
そんな言葉が頭を駆け巡っただろう。
おばあちゃんのことを受け入れられず、距離をとるようになってしまったつばさ。
しかし、あるとき、おばあちゃんが出て行ってしまい、帰ってこなくなってしまう。
おばあちゃんを家で待つつばさは、おばあちゃんの部屋で、引き出しに詰まった白い紙きれを見つける。
それは、おばあちゃんが覚えておこうと書き留めたメモの数々だった。
忘れて行ってしまう記憶の中で、忘れまいとして必死に描きとめたそれらは、一体、どんな気持ちで書かれたのだろう。
──めいわくばかりで、すみません
──つばさは、やさしい 子
──ごめんね
一番苦しくて辛いのは、本人なのだ。自分ではどうすることもできない、恐怖ともどかしさ。自分のせいで、みんなに迷惑がかかっているという申し訳なさ……。おばあちゃんのそんな気持ちを、本書は真っ直ぐ描ききっている。あまりの切なさに、涙が出た。
おばあちゃんは、「つばさはやさしい子」と書いてくれていたけど、認知症なってからのおばあちゃんにつばさは優しくなんかしてなかった。怖かった。悲しかった。つらかったから、見て見ないふりをしてきたのだ。
つばさは、そんなおばあちゃんの姿を思い起こしたのだろう。そして、心に決める。
もう見ないふりはやめよう、と。
ようやく帰ってきたおばあちゃん。
はだしで出歩いていたおばあちゃんの足は泥で汚れて、冷たかった。
つばさはそんなおばあちゃんの足に靴下を履かせてあげる。
認知症になったおばあちゃんに、初めてつばさがしてあげたこと。おばあちゃんと向き合う、ほんのわずかな第一歩。
かすかな第一歩だったけど、それは確かにおばあちゃんに届いていたのだと思う。
おばあちゃんは、以前、つばさがやってくれたように、「大丈夫だよ」といって、つばさの頭を撫でたから。
真に迫った描写がなんともリアルで胸を打つ
エピソードや描写がリアルで、胸に迫ってくるものがある。
低学年から、中学年向け。
テーマが真剣なものなので、真摯な気持ちで向き合いたい。
読み聞かせも向いているだろう。