あらすじ
主人公のぼくは、ある日、父親の仕事を調べるために、こっそりと父親の後をつける。
父親が入っていったのは、プロレス会場だった。
そこで繰り広げられるのは、正義の味方と悪者のプロレスだった。
最初は正義の味方を応援していたぼくだったが、悪者が自分の父親だということに気づき……。
父親と息子の関係を繊細に描いた作品
お父さんがプロレスの悪者役をやっているという、男の子のお話。
考えてみれば、そんな立場の子って、世の中には何人もいるのだろう。
本書は、パパの仕事が悪者だということを男の子は初めて知る。
大きくなったら何になりたいかと聞かれて、「正義の味方」と答えるような男の子が、父親が悪者役をやっているところを見て、衝撃を受ける。
それはどんなにか、彼にとってショックなことだったろう。
大好きな父親が、悪者だったなんて……。
試合で、卑怯な手を使う悪者役が、父親。主人公の男の子は、どう反応すればいいのか、分からなくなってしまう。正義の味方役のレスラーが、悪者役の父親に反撃を加えるところを、ただ言葉なくして、困惑しながら見つめる主人公の男の子の気持ちが丁寧に描かれている。
こんどは ゴキブリマスクが
やっつけられていく。
みんなは おおよろこび している。
ぼくは よろこべなかった。
わるものだけど、ゴキブリマスクは
ぼくの パパなんだ。
衆目の前で、倒される悪者役の父親。それまで絶対だった父親が、みんなの前で負け、しかもその負けをみんなが喜んでいる……。
主人公の男の子は泣く。
その姿に、心が締め付けられるようにつらくなってくる。
なんで、パパは かおを かくして、わるいこと してるんだ。
せいぎの みかたに やっつけられる パパなんて、だいきらいだ。
主人公の男の子の動揺と失望が、よく伝わってくる。
それに対して、お父さんは謝りはしない。堂々と、こう言うのだ。
「わるものが いないと、せいぎの みかたが かつやくできないだろう?
みんなの ために パパは がんばって わるいことを しているんだ。わかるか?」
「わかんないけど、わかることにする」
それに答える男の子の言葉もありのままでいい。
今は分からないし、失望も怒りもある。けれど、父親の仕事の大切さは、何となく伝わってくる。だから、「わかんないけど、わかることにする」。
彼に現実をすべて受け入れるのには、まだちょっと時間がかかる。
でも、それでも父親のことが好きなのだ。だから分かろうとする彼の姿と、自分の仕事に誇りを持つゆえに、言い訳しない父親の姿がどちらも力強く描かれている。
そして、最後に、主人公の男の子は、自分なりに現実を受け止めることができたのだろう。
彼の心の成長が見て取れる、すばらしい終わり方だと思う。
主人公の男の子の、心の葛藤を繊細に描いた作品
主人公の男の子の気持ちを、シンプルに、しかし繊細に描いた作品だ。
低学年向け。
父親と息子の繊細な関係を描いた作品なので、女の子にはあまりピンと来ないかもしれない。