あらすじ
今日も寺町どおりはお寺参りの参拝客や、出店などでにぎわっている。
その中を見回りするのは、十手持ちのくものす親分こと、おにぐものあみぞう。そして一の子分はえとりのぴょんきち。
親分が見回りをしていると、つくつく寺の和尚がやってきて、困ったことがあったと耳打ちする。
詳細を聞いてみれば、どうもつくつく寺の仏様が何者かによって盗まれそうになっているという。確かに確認すると、仏様を盗もうとした泥の痕跡がある。その後も、泥の痕跡は地下へと続く階段まで続いている。
泥の痕跡は、地下の押入れまで続き、なんと中に入れてあった諸々の品も盗まれていた。
そして泥の痕跡は、床に開けられた穴にまで続き……。
犯人は一体……?
そして、親分は犯人を見つけ出すことができるのか……?
親分の推理が冴え渡る、時代劇エンターテイメント!
時代劇の好きなかたにはたまらない、世界観。
そして虫好きなかたにもたまらない、世界観。
絵本時代劇エンターテイメントだ。
クモの巣親分こと、おにぐものあみぞうと、一の子分のはえとりのぴょんきちが、怪事件に挑む、痛快時代劇。
時代劇の面白みや、お約束を踏襲しており、絵本ながら、きちんとした時代劇をしている。ちゃんばらがないのが残念だが、タイトルの「ほとけのさばき」が生きていて、これはこれで時代劇である。
虫が擬人化されている世界観をしており、登場人物はみんな虫が擬人化した姿。擬人化していても虫の特徴を細かく描写しており、虫好きのかたならば、どの虫かすぐ分かるのではないだろうか。
あいにく私は、虫に明るくないので、はっきりと分からなかったが……(ちなみにクモが一番苦手である)。
十手を預かった身の主人公、あみぞうは、子分のぴょんきちをつれて、見回りをしている。
お寺参りでにぎわう寺町通りは虫たちで大賑わいだ。町の活気が詳細に描かれており、見るのも楽しいし、この虫だけの世界観に引き込まれていく。
そこへ、困り顔のつくつく和尚が現れ、親分に困りごとを打ち明ける。
なんと、何者かが、仏様を盗み出そうとした形跡があるのだという。他にも、盗まれたものがあるらしい。
さあ、そこからが、親分の推理冴え渡る。犯人の痕跡を追って……と捜査を始める親分。
仏様の姿もすべて虫なのがすごい。作者の虫への愛がよく伝わってくる。
この怪事件、見事親分が解決するのだが、犯人に同情、更生の余地があるのを見ると、お縄にするのをやめ、盗んだものを返させ、犯人たちに反省を促すと、これにて一件落着とする。まさに仏の裁きである。
そして、また、親分を十手片手に、町の安全を守るため、見回りを続けるのであった。
とにかく、虫の描写がすばらしい。どこを開いても、虫、虫。適度に擬人化はされているが、あくまで虫たちの世界なのである。仏様だって虫の様相だ。しかし、仏様の手に持っているものが細かく描写されているため、どの仏像を模しているのか分かりそうだ。それぐらいに、すべてにわたって、詳細に描写されている。
文章は軽快で、テンポ良く読める。お江戸口調の親分はいかにも時代劇に登場しそうで、とても頼もしい存在だ。「銭形平次」を思い起こさせる。
ただ、子ども向けにしてはあまりなじみのない単語や言い回しが出てくるため、そこは勢いとノリで押し切るか、単語の意味を教えてあげたりするといいかもしれない。
テンポよく読み聞かせやすい絵本だが
文章のテンポがとてもいいので、読み聞かせはとてもしやすいと思われる。
虫好きの子にも最適だろう。
ただ、時代劇にあまりなじみがない子だと、世界観が今ひとつ伝わらない可能性がある。
勢いとノリで読みきるのもアリ。
低学年から中学年向け。
適度に擬人化されているので大丈夫だと思うが、極度の虫嫌いのかたはひょっとするとダメかもしれない。