絵本の森

『いくらなんでもいくらくん』──いくらなんでもその発想はなかった

あらすじ

ある日、町に変な店ができました。
お殿様の家来は、その店が一体なんなのか、お殿様の命令で調べにきました。

その変な店では、いくらのおすし(軍艦巻き)が店主で、何でも屋だというのです。
よく分からないままに、家来は、殿様に調べたままを伝えます。

いくらのおすしが店主で、何でも屋なんて……
馬鹿にされているような気分になった殿様は怒り、そのいくらのおすしをつれてくるように命令しました。

つれてこられたいくらのおすし。
殿様は、「何でも屋というからには、何でもできるのだな」と、無理難題をふっかけます。
しかし、いくらのおすしは、顔色一つ変えず……。

 

何故いくらなのか、それが問題だ

いくら……である。
あの鮭の卵のいくらである。

そのいくらが店を出した。
いくらといっても一粒ではなく軍艦巻き状態になったのが「いくらくん」というそうな。

怪しんだ町の人々。
そりゃそうである。
いくらのおすしが、店をやっているのだ。しかも、何でも屋という、謎の店を。
ちなみに「何でも屋」と言い出したのはいくらくんである。

 

当然、このいくらくんの謎のお店、何でも屋は殿様の耳に入り、家来が実態を調べたところ、全然全貌がつかめず、困惑するばかりとなった。
仕方ないので、いくらのおすしが「何でも屋」をやっていると正直に伝えると、怒ったのは殿様。

「でも おとのさま!ほんとうなのです!
いくらのおすしが そう いえと!」

そりゃにわかには信じがたいわ……。

家来のメモ書きに書かれた「まちのひとのこえ」が面白い。

いちやにして
あらわれた
きみがわるくて
ちかづけない

やっぱり……町の人も気味悪がっていたんだ……。

 

お殿様はいくらくんを呼び出し、「何でも屋」というからには、何でもあるのか、と尋ねる。
最初は馬鹿にされていると思った殿様、いくらくんを困らせてやれと、季節外れである葡萄を出せと命じる。
いくらくん、顔色ひとつ変えずに、「あいよ」との返事。

そして、いくらくんは、摩訶不思議な方法で、葡萄を作り出すのであった……!

軍艦巻きのいくらくんの頭には、いくらがたくさん乗っている。
そのいくらで、一粒一粒、葡萄を形作っていき──葡萄完成!
まるで粘土か何かのような扱いのいくらだが、これが食べてみたら、本当においしい葡萄だったというのだから殿様はびっくり。
私だったら、頭の上に乗っているいくらで作られた葡萄など食べたくないが……。

あまりにおいしい葡萄だったので、殿様はつい、お代わりを所望しかける。
それにあわてた家来。

「おとのさま!おちついてください!
これは なにかの からくりです!
どうにもこうにも あやしいのです!」

家来が常識人だ。

 

考えてみてもほしい。
いくらで出来ているということは、いくらの粒粒が集まって、その形を成しているということである。味のほうはおいしいかもしれないが、見た目はいくらの集合体である。正直、気持ち悪い。何故作者はいくらをこんなに全面に押し出そうとしたのだろう……。謎すぎる……。

 

しかし家来の発言も、いくらくんの神技の前には意味を成さなかった。
次々といくらでいろんなものを作り出す、いくらくん!
桜が満開の桜の木、打ち上げ花火、池の鯉……

すごい! 美しい! と大興奮の殿様!
でも、全部いくらで出来ているから、若干気持ち悪いと思うんだが、それでもきれいなのか!?

重度のトライポフォビア(ぶつぶつが苦手な人)にはきつそうである。

 

しかし……
どう考えても頭の上に乗っているいくらの数と、使っているいくらの数の数が合わないのだが、頭の上のいくらは自動発生するのか……?
いくら風呂の場面でそれっぽい絵があるので、きっと、自動発生していくのだろう。
もはやいくらであっていくらでない、いくらのような何かである。何故いくらである必要があったのだろう……。

 

殿様はいくらくんを大層気に入り、ずっと側に置くことに。
いくらくんが何でも作り出してくれるので、殿様、少々、ダメ人間になり気味に……。

 

それでも別れはやってくる。
夏になると、厚さに弱いらしいいくらくんは帰ることになった。
「いやじゃーいやじゃー」と駄々をこねるいくらくんが最後に殿様に作ってあげたものとは……?

 

殿様、実は遊び相手がほしかっただけなのかもしれないね。

 

いくら、奇想天外

幾らの軍艦巻きである「いくらくん」が、いくらを使っていろんなものを作っていく、という奇想天外の発想を展開していく絵本である。
設定が大いに面白く、笑える場面も多々あるのだが、物語性にはあまり富んでいない。
謎の勢いがある。

分かりやすくシンプルな展開は、読み聞かせで盛り上がりそうだ。
一部、読み聞かせにくい構成のページがあるが、そこを工夫したら、読み聞かせに向いているだろう。
幼児、低学年向け。
お笑い系の絵本。