あらすじ
ある夜、バケツが歩いていたら、転んで中身をぶちまけてしまった。
出来上がったのは、大きな水溜り。
しかし、この水溜り、普通の水溜りと違って──？
妖しい世界観で起きる怪談を目の当たりにしよう。
不思議なバケツの正体は？
表紙に謎な生き物が描かれている。
バケツから何かが覗いており、足が生えている。
かわいらしい、というより、絵柄のリアルなタッチもあいまって、何だか不気味といったのが正直なところだ。
本書はバケツが歩いているところから始まる。
バケツが二足歩行しているのである。
それ以外の説明は本文にもない。
バケツは転んでしまい、中に入っていた水をこぼしてしまう。
ざばり、というかデロリという感じのこぼれかたなのだが、本文は「みずたまり」ができたと書いているので、恐らく水溜りなのだろう。
そこへ、ヤマネコがやってきて、水溜りを引っかいた。
「きゃっ」
みずたまりから こえがした
……ん？
みずたまりだけど、意思があるの？
……この水溜りに見えるようなものは一体何……？
そこから、話は変化を見せ始める。
鳥の鳴きまねをしたり、飛び込んできた石ころに対して、「とびこみきんしだよ」と言ったり……
知らない子が空飛ぶ小船に乗って釣り糸をたらしにきたり（ちなみに何故飛んでいるのかなどの説明はない）……
挙句の果てには、ゾウが水浴びにきたりする（どう考えても絵だけを見ると溺れているようにしか見えないが……）。
話は奇想天外な方向に展開していき、スケールも大きくなってくる。
「みずたまり」であるという前提はもはや、どこかに行ってしまうぐらいのナンセンスな展開である。
しかし、絵柄がどうにもリアルで迫力があるためか、単純に笑える絵本かといえばそうでもない。
画面の端々に何かを案じさせるものが描かれていたり、木には見えない色彩の木が生えていたりと、不思議で少し不気味な世界観を構築している。
「みずたまり」は話の途中で花を咲かすのだが、その場面はとても美しい。
雨とともに魚がふってくる場面なども不思議で神秘的だ。
だが、ホッと不思議な光景に安心感を抱いていたら、魚の何倍もの大きさのおたまじゃくしが上から落ちてくるという衝撃的な場面に出くわしたりして、油断ならない。
常識的には考えられないことが、次から次へと起きる。
リアルなタッチで描ききった世界観は、不思議で、不気味で、すこしいびつで、なんともいえない妖しい空気をまとっている。
人を選ぶ作風ではあるが、好きな人にはたまらない一冊だろう。
文章は見開き数行程度で、最小限にとどめた感じである。
そして物語の最後はどうなるのかというと、バケツは自分でこぼした「みずたまり」を吸い上げて……
バケツの正体がようやく分かるのである。
なるほど、君でしたか。
美しい絵を堪能しよう
文章はいたって少なく、絵がメインの絵本。
不思議な展開、妖しい雰囲気、ナンセンスなスケールの大きさの話が好きな人にはおすすめの一冊だ。
読み方によっては、読み聞かせ映えするだろう。
だが、笑いをとれるような種類の本ではなく、リアルタッチの迫力ある絵が展開されるため、あまり「かわいらしい」といったものとは縁がない。
不思議で妖しい怪談を目撃するかのような、そんな絵本である。
対象は幼児、低学年向け。絵がリアルなので、怖いと感じる子も出てくるかもしれないが、話自体は怖くはない。
