あらすじ
これはパパがやいたあまくてあつあつアップルパイです、から始まる、言葉遊び絵本。
文章が上にくっついていきます。
アップルパイから、りんご、りんごからりんごの木、りんごの木から木の根っこ。
世界はだんだん広がっていって、ついには雨や空や、そして地球にまで!
さて、このアップルパイは、誰のもの?
言葉遊びの不思議な味わいのある絵本。
アップルパイはどこからきたの?
言葉遊びの絵本。
これはパパがやいたあまくてあつあつアップルパイです
という一文から始まる、回帰型言葉遊び絵本。
この一文の前につけくわえるように、文章が続きます。
これはあかくておいしいりんごです
りんごはパパがやいたあまくてあつあつアップルパイになりました。
……といった具合に。
下に続けていくのは、以前紹介した『これはすいへいせん』でもあったが、本書はその逆を試みている。
こうしてこの絵本を読んでいると、日本語は前につなげていくにはなかなか難しい言語なのだなぁと印象を受けた。
下に続けるだけなら、元の文章をそんなに改変しなくてもそこそこ意味が通じてリズムもテンポもとりやすいのだけど、その逆、つまり元の文章の前に新しく文章を追加していくのはなかなか難しい。リズムがとりにくく、パッと見ただけでは文章の意味が頭に入ってこない。
そのために、文章の一部の単語を大きめにすることによって、文章を外側から入れ子状にしていこうという試みが見られる。
アップルパイ、りんご、りんごの「き」、ねっこ……
一つの単語を俯瞰して見てみると、「アップルパイ」から始まった小さな世界が、だんだんと大きな世界に広がっていくさまが分かる。そこに自然と、言語の面白さを感じる。
ただ、私が漫然と感じている面白さは、日本語で読んだから感じる面白さなのかもしれない。
原語で読むと、また違った発見と面白さがあるのかもしれない。
さて、この「アップルパイ」から始まって、大きく広がって行った世界、ついには「ちきゅう」規模になる。
何だかそれは、「アップルパイ」ひとつをとっても、私たちは地球規模で繋がっているともとれる表現になっていて、そこに面白みを感じるとともに、大切な何かを感じ取ったような気がした。
「アップルパイ」ができあがるまでに、どれほど大きな世界から繋がってきたのか。「アップルパイ」の「りんご」は、どうやって、どこからやってきたのか。
そしてこのあつあつのアップルパイは、一体誰のものになるのか?
「わたし」のパイ?
いやいや、そこは地球規模のつながりを見てきたのだから、「みんな」のパイ、それがいい。
言葉遊びの側面を色濃く持ち合わせながらも、どこか、私たち生き物や自然は地球という大きなものの中にいるという感覚を呼び覚ましてくれる不思議な絵本。
これは、単なる言葉遊びの本ではない。
読めば読むほど、言語の持つ面白さやそれの持つ不具合を楽しめる不思議な作品であると同時に、何だか身近な生き物や自然に優しくなれるような気のする、味のある絵本である。
しかし、あつあつのアップルパイ、なんて書かれるとアップルパイが食べたくなる。
難しいことは抜きで言葉で遊ぶ
言葉遊びの側面が強い絵本なので、物語を読むというより、言葉で遊ぶといったほうがふさわしいような絵本である。
読み聞かせにはテンポよくが必須になるだろうが、日本語と相性が悪いのか、ちょっと音読しづらい。
面白く感じる層と、そうでもない層にはっきりと分かれる絵本だろう。
私は結構興味深く読んだが、読後、「よく分からない」という感想を持つ人も多いかと思う。
対象は幼児から低学年。