あらすじ
アンナちゃんのブラウスについたボタンちゃんは、あるとき、ふとした弾みでブラウスから離れ、ころころころと玩具箱の裏に転がっていってしまいます。
そこには、アンナちゃんが赤ちゃんのころ、使っていたガラガラや、涎掛け、クマのぬいぐるみなどがいました。
玩具箱の裏に落ちてしまって、その存在を忘れられているようでした。
彼らは忘れられていることに嘆き、悲しみます。
昔は、あんなにアンナちゃんの役に立ったのに……。
ボタンちゃんは、彼らの話を聞いて、今のアンナちゃんは立派に育っていることを伝えます……。
心が温かくなる、子どもの成長を実感するストーリー。
思い出の品たちが温かく見守ってくれている
優しい絵柄と、優しい文章で綴る、優しい物語。
読み終わったとき、子どもは成長していくものなんだなあと改めて感じた。
きっと、子育てをしているかた、していたかたは、子どもの成長を、今まで使っていたものを使わなくなったり、切れていた服が小さくなったりしたときに、強く感じるのではないだろうか。
主人公のボタンちゃんは、アンナという少女の一張羅のブラウスについたボタン。
彼女は、あるとき、ふとした弾みで、ブラウスから取れて、ころころころ……。たどりついたのは、玩具箱の裏側。
そこで出会ったのは、玩具箱の裏側で、その存在を忘れられてしまったかのような、アンナちゃんのガラガラや涎掛け、ぬいぐるみだった。
玩具箱の裏側で、アンナちゃんに忘れ去られ、誰にも気にかけてもらえない彼らはとても嘆いていた。昔はあんなに活躍にしたのに、と過去の栄光を思い出す、彼ら。
落ち込み、しょんぼりとしている彼らに出会うたび、ボタンちゃんは、優しい言葉とともに、今のアンナちゃんの様子を語ってきかせる。
その言葉が本当にとても優しい。
アンナちゃんは、あなたがいなくても大丈夫になったのよ、それはあなたがいてくれたから。
彼らの存在を受け止め、肯定し、彼の功績を認めながら話して聞かせるボタンちゃんの言葉が心にしみ入ってくる。
子どもの成長は早くて、ガラガラも涎掛けも、すぐに役目を終えてしまう。
眠るときの安心を与えていたぬいぐるみも、一人で眠れるようになったら、必要なくなっていく。
寂しいけれど、彼らからの卒業は、アンナちゃんの成長の証なのだ。
だから、嘆くことはない。
彼らの存在はムダではなかったのだから。彼らの存在はとても大切なものだった。
彼らは胸を張っていい。ちゃんと、役目を果たしたのだから。
だから、忘れられたって、その存在がいらなくなるわけではないのだ。
彼らが役目を果たしたおかげで、今のアンナちゃんは立派に成長した。
そして、これからも成長していくのだろう。ボタンちゃんのついたブラウスが、思い出の箱に収められるようになったのだから。
思い出の品というものは、いろいろなものが詰まっている。
そのときの感情や思い、出来事の記憶……。
彼らにもし自我があったなら、きっと、持ち主を温かく見守ってくれていることだろう。
このお話は、そんな思い出の品というものを、子どもの成長を通してみる、優しい物語だった。
成長するにつれ、いらなくなっていくものたちの話
これは、成長するにつれ、いらなくなってしまうものたちを優しい視線で描いた物語だ。
この本を読む子の中には、今ひとつピンとこないかもしれない。もしかしたら、あんな品を使っていたなあと思い出す子も出てくるかもしれない。
だが、大抵、子どもの成長していくスピードは速く、その成長の影に使われていたものたちのことはなかなか本人の記憶には残らないのではないか。
この本は、子育てをしている人、子育てをした人など、子どもの成長に携わってきた人が読むと、心にジンとしみる優しい物語だろう。