あらすじ
ミス・ヘクターに、犬のフリッツの世話を頼まれたアラン。
犬のフリッツの世話を頼まれるのは、これが初めてではありませんでした。
しかし、このフリッツ、いたずら好きで言うことを聞かない犬。
散歩の途中で、フリッツはすごい勢いでリードを引っ張り、首輪からすっぽ抜けて逃げていってしまいました。
逃げていった先には美しい庭園の入り口でした。
そこには注意書きがありました。
「ぜったいに、なにがあっても、犬を庭園の中に入れてはいけません
──引退した魔術師・アブドゥル・ガサツィ」
アランは不安になりました。犬を入れてはいけないのに、フリッツが入ってしまったからです。
アランは、早くフリッツを見つけだそうとしますが……。
逃げた犬を追いかけて……
モノクロで精密に描かれた絵と、長めの文章。
必ず絵は右で、本文は左というデザインである。
全ページにわたって、飾り枠が描かれているのが何とも雰囲気があっていい。
アランという少年が、フリッツという犬を追いかけて、広くきれいな庭園に迷い込んでしまい、そこで魔術師のガサツィと出会う、という話なのだが、庭園の美しさについては文章で描写されることは少なく、絵を見て味わうことになる。
その庭園だが、注意書きの札がかかっていて、そこにはこう書かれている。
「ぜったいに、なにがあっても、犬を庭園の中に入れてはいけません」
「ぜったいに」「なにがあっても」である。
この念の押しように、大変なことが起きるのではないかと不安になってくる。だって、フリッツという(言うことの聞かない)犬が、庭園に入ってしまったのだから。
しかも、その注意書きの下には、
「引退した魔術師・アブドゥル・ガサツィ」
……と丁寧に書かれている。引退したとはいえ、魔術師である。犬を入れてしまったことで、何をされるのだろうと、不安がさらに膨れあがる。
アランとともに不安に思いながら、美しい庭園を犬のフリッツを探しながら歩き回る。しかし、ついに、ガサツィと顔を合わせてしまい、アランは正直に犬を庭園に入れてしまったと話し、詫びる。
ガサツィの迫力は満点だ。
でかい。とにかくでかい。貫禄がある。
そんな迫力満点のガサツィは、犬が嫌いで、迷い込んだ犬なんかは全部アヒルに変えているというのだから、アランは悲嘆にくれた。なぜなら、フリッツもアヒルにされてしまっていたのだ……。
アヒルになっても言うことを聞かないフリッツ、アランの帽子をくわえて、飛んでいってしまう……。本当に最後までイヤな犬だな
この話が何よりも不思議なのは、その後だ。
フリッツがアヒルに変えられてしまい、飛んでいってしまったと泣きそうになりながら、フリッツの飼い主に話していたら、当のフリッツが姿を見せるのである。
これは、ガサツィさんに担がれたのでは?
担がれたんだよ、きっと!
ハハハハ、ガサツィさんも人が悪いなあ!
いくら犬が好きじゃないからって、ねえ!
……と、幕を閉じるかと思われた最後に、フリッツがアランの帽子を持ってくるのである。
これは……アヒルになったフリッツが持っていったはずの……。
文章が児童書ほどある
絵本にしては文章が多めで、絵も白黒というデザインをしているので、子どもはなかなか手に取らないかもしれない。
むしろ、おとなが引きつけられる装丁の本である。
内容はちょっと不思議な話、といった感じだが、タイトルにある「庭園」は登場してもあくまで舞台といった感じで、話のメインではない。
対象は中学年以上だろう。
読み聞かせにはかなり時間を要するので、一人読み用の絵本と思ったほうがいい。
白黒ながら、イラストは緻密で、美しい庭園を望めるので、おとなが読んでも十分、楽しめる。