いやいやそうではありません
空とぼけた、ユーモラスな内容の絵本。
「けっしてそうではありません」という言葉の響きからして、なにやら、勘違いさせるような場面が出てきて、それが違うんだよ、という内容なのだろうかと想像がつく。
実際の内容は、当たらずとも遠からず、といった内容だ。
絵は、相変わらずの五味氏のあたたかみのある絵柄で、見ているだけでも癒される。独特な色使いに、毎回センスを感じる。
文章はすべて形式化されていて、たとえば
ありは 角砂糖をたべにゆくのでは けっしてありません。
花の下で ともだちと待ち合わせをしているのです。
といった感じに、○○するのではけっしてありません~(本当の理由)。といった形式でページが進んでいく。
最初のうちは、哲学的な響きを感じ取ったり、何かを示唆しているのかしらなどとおとなは読みすすめていくだろうが、だんだん、読み手を翻弄するような、からかうような場面が増えていく。
このあたりの味のある展開が、実に五味氏らしい絵本だと思う。
絵を見て、たぶんこういうことだろうと推し量ったところで、実は違うんですよ、という提示は、かたに嵌りきったものの見方をほぐしていくようだ。
私は、かたつむりのページがお気に入り。
「この絵がさかさまなんじゃないの」とは、思わず笑ってしまった。なるほど、そうですね、一理ある。
物語性はなく、見開きごとに進んでいく構成。
どこから読んでも支障はないが、終盤に向けてだんだん日が沈んでいく様子なので、最初から順番に読んでいったほうが、この五味氏ワールドを楽しめるだろう。
幼児向け。
低学年になると、内容が幼くなってしまうだろう。
虫やこうもり、ねこなど、かわいらしい絵がいっぱい。
この絵本には人間が登場しないが、五味氏の絵やユーモラスな作風が好きな人は存分に味わえる本だろう。