あらすじ
昔々、ムシャノコウジガワという大きな大きな鼻をを持った人がいました。あまりに大きな鼻なので、歩くたびに地面にめりこんで、大きな穴があくほどでした。
自分の鼻であけてしまった大きな穴にはまってしまうムシャノコウジガワさんは、大きな声で助けを呼び、町の人に助けてもらっていました。あまりに頻繁に起きることなので、ムシャノコウジガワさんが穴にはまったときに鳴らす鐘があるほどです。
あるとき、町の人々は、毎日ムシャノコウジガワさんの鐘がなるたびに助けに走らなければならないのは大変だと思い、どうすれば負担が軽くなるかを話し合い始めました……。
ムシャノコウジガワさんの大きな鼻はみんなの心配の種だった
タイトルに惹かれて読んでみた。
鼻が恐ろしく大きいムシャノコウジガワさんという人物が登場する。彼の鼻は、あんまり大きすぎて、歩くごとに地面に大きな穴があき、彼はその穴にはまってしまうので、そのたびに町の人々にいつも助けを求めている……という何とも奇怪な世界観で始まる。
芥川龍之介の『鼻』と関係があるのかと思ったが、読んでみた感じ、あまり関係はなさそうである。
なにより、ムシャノコウジガワさんが自分の巨大な鼻を何とかしようとしたり、気に病んでいる様子が全くない。一日およそ55回ほども穴にはまり、そのたびに町のみんなに助けてもらっているのに、あまり感謝の意も見受けられない。……うーん……
最初は、みんなで助け合うことの大切さ、タイトルにもあるとおり友情などが描かれるのかと思ったのだが、なんだかそれもちょっと違う。
あるとき、ムシャノコウジガワさんの大きな鼻のために毎回助けにいくのは大変だという話し合いを始めるのだが、登場する町の人はほとんど建前と本音があって、話し合いは難航し、何とも人間の表と裏を皮肉っているように感じられる。タイトルのおもしろそうな響きとはちょっと違う方向の雰囲気である。
誰一人として本音で語り合わないし、みんなそれぞれ都合のいいように事態を見ていて、わかりあうという場面もない。これが現代社会を皮肉った作品だとすればまさにその通りだろう。見事だ……と思うのだが、作者がどういう意図で書いているのかよくわからない。ナンセンスコメディを書こうとしている気配も見られるのだが、地の文でボケにツッコミを入れるような補足説明が連発されるところなどは終盤、食傷気味になってしまう。
ムシャノコウジガワさんはお世辞にも性格がいいとはいえず、リアリティがあるといえばそうなのだが、あまり物語の中心人物としては好感がもてない。ムシャノコウジガワさんのためにみんなが話し合ったり、どうにかしようとしているのに、本人は居眠りをしたり、すねてむくれたり、わざと転んで鼻で地面に大きな穴を作ってみたりと、読んでいて「なんだかなぁ……」という気持ちになってくる。
自らの鼻であけた穴にはまったムシャノコウジガワさんを、毎回毎回助けに走るのは大変なのでどうにかしようという話の流れは納得だし、なにより転んだら立てないムシャノコウジガワさんに自力で立ち上がれるよう体操などで力をつけるという結論も納得できるのだが、当の本人に全くやる気がなく、コーチとしてついた体育教師にあれこれ偉そうに文句をつけたり、話を聞いているふりをしたりして、今一つ、何とかしようという気概が感じられない。
体育教師は体育教師で、いろいろと小ずるいことを考えたり、目的を見失って自分だけが体を鍛え始めたりと、どうにも好感がもてない。
結局最後のオチは、体育教師か筋肉もりもりになって、ムシャノコウジガワさんの巨大な鼻ももろともせずに持ち上げられるようになったので、ムシャノコウジガワさんが何か困ったことがあれば、その体育教師が何とかするようになった、で終わる。
これでは、根本的なところは何の解決もしてないし、ただ体育教師にムシャノコウジガワさんの面倒を押しつけただけのように見える。
もしかしてこれがタイトルの「友情」なのか……?
正直なところ、読み終わった後の感想は、「なんじゃこりゃ」だった。装丁やデザインはコメディチックなのに、内容は人間関係における本音と建て前のかなり皮肉な内容である。
そう意図しているとすれば、これほどあからさまに本音と建て前の存在をメインに扱った児童書もそうないだろう。この見方が正しければ、この本は見事な作品である。
本音と建前、誰にでもあるこれをどの人物にも描写したところがすごい。本音と建て前が絡み合い、一方は思いこんで、一方は勘違いして事態が進んでいくところなど、まさに人間関係そのものである。また、利己的な考えが絡んで話し合いが進まないところなどは、何かの縮図のようではないか。シニカルな気持ちになる。
タイトルと絵に反して、ちょっぴりシュールで皮肉の効いた作品である。これはおそらく、コメディ作品ではないのだろう。……おそらく。
シュールな世界観と皮肉の効いた内容
コメディ作品のように見せかけて、笑うような場面はあまりない。
皮肉の効いた作品だ。
対象は高学年だろう。
中学年でも読めないことはないが、笑いをメインに描いているわけでもなさそうなので、高学年以上を対象にしたい。
好みの分かれる内容ではあるが、波長が合えば楽しめるだろう。