あらすじ
ケチャップマンは悩んでいた。
自分にしかできないことはないだろうかと毎日悩んでいた。
ある日、偶然にもポテトフライ専門店にたどり着き、ケチャップマンは思い切って自分(ケチャップ)を売り込んでみた。
しかし、店長は見向きもせず、人手不足だからとなぜかアルバイトとして採用されてしまった。
ケチャップマンはポテトのあげかたを猛特訓する。店長に怒鳴られながら、夜中まで。
日々、ポテトをあげ続ける日々。
ケチャップの出番はない。
これでいいのだろうかと悩むケチャップマンだったが……。
哀愁漂うケチャップマン
なんだろう、この表紙から漂ってくる哀愁は……。
トマトを手にして、じっと見つめるトマトケチャップ容器から足の生えた男、ケチャップマン。
ほかの登場人物はみんな人間の形状をているのに、どうしてケチャップマンだけが容器なんだケチャップマン。
漂う哀愁に、私たちは絵本を超えた何かを感じ取る。そう、おとなだけが感じ取れるこの悲哀……。
シュールとしかいえないケチャップマンの姿形はおいておくにしても、内容もちょっぴり切なさの効いたおとな向け。
この絵本、子どもウケするのかな……。
じぶんにしか できない なにかを さがして
まいにち なやむ ケチャップマン
……笑えない。笑えないよ!
おとなの心に突き刺さってくるよ!
ここ笑うところなんだろうな……という場面がいくつも出てくるのですが、なぜか心から笑えないという、おとなの哀愁漂ったこの絵本。
もう一度考えるけど、この絵本、子どもウケするのかな……。
テンポよく練られた文章はとても読みやすく、展開も分かりやすい。
しかし話の展開は妙にリアルで、確実におとなの心をえぐってくる。
自分の才能を売り込んでもてんで相手にされないケチャップマン。
なぜか人手が足りないからとそのままポテトフライの店でアルバイトをすることになったケチャップマン。
ポテトのあげかたの指導で店長にどなられるケチャップマン……
リアルな画風でケチャップマン……。
自宅のベランダでたそがれるケチャップマン……
とてもじゃないけど、「ケチャップの容器がたそがれてらー!」なんて指さして笑えない切実感が漂っている。
自分の才能を生かして、自分のしたいことをやり続けられる人は、この世には少ないからこそ、ケチャップマンの悩み事が胸に突き刺さってくる。
本当はこんなことをしたいんじゃない……
自分にしかできないことを成し遂げたい……
この思いは、子どもにはわからないと思う。その境地にまだ至っていないから。
わからない子にとっては、この絵本はケチャップの容器が変なことで悩んでおもしろい絵本という評価になるだろう。漂う哀愁もよく理解できないかもしれない。
トマト頭のトメイト博士の出現で、ケチャップが売れたのだけど、ケチャップはなんだか変な気分のまま帰途につく。これでいいんだろうか、という漠然とした不安。よくわかる。
来る日も来る日もトメイト博士はケチャップを所望する。ケチャップを摂取するごとに、膨れ上がっていく顔が本気で怖い。
そしてついにトメイト博士のとった行動がスプラッターホラーに!
こ、これはいったい、誰に向けて描いてるんだ!?
子どもウケするのか!? 何かの比喩なのか!?
ひいいいいい、なにこれ
本当に怖い、グロい、怖い!!!!
トメイト博士が爆発したおかげで、ケチャップの良さが広まった。突然爆発とか書いてて自分でもよくわからないが、とにかく博士の頭が爆発するのである。リアルなタッチの絵で、爆発したトマト頭を想像してほしい。
まさに、グロい。
下のほうに 注釈で「※これはケチャップです」と書いていてもいいぐらいだ。
しかし、博士が爆発してケチャップがあふれ出たことで、ほかの人たちにケチャップのおいしさが伝わった。
ケチャップマンは、自分しかできないことを認めてもらえたのである。
しかし、悩み事はそれで解決しても、日々は変わらない。後にも先にも、日常は続くのだ。劇的に人生が変わるような出来事なんて、そうそうないものなのかもしれない。ここがまた妙にリアルで、どきりとする。
だが、社会生活とは、そんなものなのかもしれない。悩み事は尽きず、日常だけがあわただしくすぎていく……そんなもの。
最後に、ケチャップマンは仕事帰りに風に吹かれて、久しぶりに笑う。
社会生活とは、そんなものなのかもしれない。劇的なことなんかないけど、時々些細なことで笑う、そんな毎日が社会生活なのかもしれない。
いったいどの層向けなのか……
哀愁漂う、悩み事を抱えたケチャップマン。
リアルで少し怖い感じのする画風は、一見すると怖い話の本にも見えるが、怖い話のつもりで書かれているものではないのは内容でわかる。
しかし、リアル調の画風のためか、トマト頭のトメイト博士が爆発する場面は、確実にグロい。むろん、赤いのはケチャップなのだが……。
妙に現実感にあふれた話の展開、衝撃的な場面と、いったいどの年齢層に向けて描かれたものなのかわからない。
これはむしろ、おとな向けの絵本なのではないだろうか。
文章自体はリズムを刻んでいてとても読みやすく、低学年でも読めるだろう。……が、衝撃の場面を見てから、子どもに薦めるかどうか考えた方がいい。