あらすじ
学校からの帰り道、健太は不思議な看板を目にする。
「ロボットかします」と書かれている。
興味が出てきて、健太はその店に入ってみた。すると、その店は、いろんなロボットをレンタルできるレンタルショップだったのだ。
かねてから弟がほしいと思っていた健太は、自分の持っているお金すべてと引き替えに、弟ロボットをレンタルした。
いきなりできた弟に、周りはまったく不思議がらない。まるで元々いたかのように弟ロボットはすんなりと健太の弟になった。
はじめは弟ができてうれしかった健太だったが、次第に弟が優先されがちになって不満がたまっていき……。
兄弟というものの絆を考える本
兄弟というものは不思議なものだ。
子どもの頃はとても仲が良かった兄弟が、大人になって憎しみあっていることもあれば、仲が悪かった兄弟が大人になってから歩み寄ることもある。
自分は下に弟がいたから、上の子の苦労や、不満がよく分かる。
この『レンタルロボット』は、兄弟の姿がしっかりと描かれている。主人公の健太は、弟がほしくて、弟ロボットのツトムをレンタルしてくる。
最初はお兄ちゃんお兄ちゃんとなつかれることに喜びを感じていた健太だったが、次第に、両親は「兄ちゃんだから我慢して」といって、ツトムを優先しがちになってくる。健太は弟に対し、不満が募り出す……
分かる。とても分かる。
「お兄ちゃんだから」「お姉ちゃんだから」
この言葉が、どんなにか腹立たしいものか!
ついに、健太はツトムが憎らしくて仕方なくなり、ツトムを返しにいく……。
兄弟のいいところだけを描かず、こういう、健太の微妙な心の機微を描いた、見事な話だと思う。
兄弟愛を美しく描く作品は数多くあるが、こんなにリアルに兄弟というものを正面から書いたものはさほど数は多くないだろう。健太とツトムの関係は、その年頃の等身大に迫るものがある。
反射的にとってしまったツトムを返す、という行動はもはや取り消せなかった。ここに、やってしまったことはどんなに悔いても取り消せないこともあるという現実がある。健太はそのとき初めて気づくのだ。ツトムはかけがえのない弟だったということに。
兄弟というのは不思議なものだ。
離れてみて、初めて見えてくる。兄はどう思っているのか、弟はどう思っているのか。それが良い方向に気づかされるか、悪い方向に気づかされるかは分からないが、兄弟というものは、不思議な絆で結びついている。
軽率に、弟がほしいと思ってしまった健太。
弟ができるということの大変さが分からず、覚悟もまた足りなかったと言わざるを得ない。それがうまくいかなくなるのは必然で、ツトムとのつらい別れによって、健太は「兄」としての大変さと、責任感を学ぶことができた。
もう、あのときのツトムは帰ってこない。それを受け入れて、健太は初めて、本当のツトムの兄になった。
ツトムはすでに老夫婦の孫としてレンタルされていた。それを取り戻そうとしたがかなわなかった。そして、健太は言う。
「(前略)いま、この子がいっしょにいたいのは、おじいさんとおばあさんなんです。できるかぎり、いっしょにいてあげてください。おねがいします。」
そして、ツトム自身が自分の誕生日に願っていたプラモデルを彼にあげる。そのプラモデルは、いつか、兄弟喧嘩をして壊してしまった健太のロボットのプラモデルと同じものだった。ツトムは、本当に兄の健太のことを慕っていたのだ。
ツトムをツトムとして取り戻すことがかなわないと知ったとき、健太は兄として、老夫婦に頭を下げた。兄としてできることは、これぐらいだと思い知った上での、必死な思いが詰まっていただろう。
ツトムが残した手紙には、いかにもな日本的な展開だと感じはしたが、それでも、やはり胸を打った。
健太が弟を捨てて(レンタル屋に返して)それでおしまい、だったらここまで心に響く作品にはならなかっただろう。
どちらにせよ、ツトムは返されなくてはならない状況になるわけだったが、健太はツトムとの交流と別れで「兄」とはどんなものか強く思い知っただろう。
「よいお兄ちゃん」になるかどうかは別として、「弟」のかけがえのなさを知っている健太は、誰よりも「弟」という存在を大切に思うようになるだろう。
健太が、ツトムのことを忘れないうちは、健太は立派な兄だ。もちろん、たまに喧嘩のひとつやふたつぐらいはするとは思うが、それは通過儀礼のようなものだ。きっと健太は、ツトムのことを忘れないだろう。
だから、新たに迎え入れる兄弟に対しても、彼は「兄」であろうと心がけるに違いない。
読み手が上の子か下の子かで受けとめ方が変わりそうではある
本書は兄の健太からの視点であるため、兄弟喧嘩も、「お兄ちゃんなんだから我慢」への不満も、末っ子の子は感情移入しにくいかもしれない。
非常に読みやすい文と、健太の心理描写が巧みで、話にも起伏があって飽きない。最後の展開には感動する人も出てくるだろう。海外文学ではあまり見られない兄弟の絆である。
対象は中学年以上。一人読みする種類の本である。読書感想文にも向いているかもしれない。