絵本の森

『ハリネズミと金貨』──心温まる冬支度の話

あらすじ

年をとったハリネズミは、ある日、道ばたに金貨が落ちているのを見つけました。
ハリネズミは、この金貨を使って、冬支度を整えようと考えます。

干しキノコを買って、のんびりと冬を越そうと考えたハリネズミでしたが、どこにも干しキノコが売られていません。
困っているところに、木のうろからリスが顔を出して、ハリネズミの持っている金貨に興味を示しました。

ハリネズミは、この金貨を使って、干しキノコを買おうと考えていることを話しました。すると、リスは……。

 

人と人が助け合い、寄り添いあう、あたたかな世界

読み終わると、心に暖かいものが広がっていくような絵本である。
金貨を拾ったハリネズミは、それを使って冬支度をしようと考えるが、行く先々で出会う人(動物や虫)はお金なんて結構とハリネズミの冬支度に手を貸してくれる。

 

この優しさは、いったい何だろう。
ごく自然に、何の見返りもなくさしのべられた助けの手に、人と人が寄り添いあい助け合って生きていくことの大切さが伝わってくるようである。

何をするのにもお金がかかるこの世の中で、こんなに優しい世界は存在しているのだろうか。
困っている人を見かけたら、何の見返りも期待せず、手をさしのべることが私たちにできるのだろうか。

 

なんだかんだと多くの人が手をさしのべてくれたおかげで、ハリネズミは拾った金貨を冬支度に使わずに済んだ。彼を助けた人々は、その金貨は自分のために使ったらいいと言ったが、彼は最終的に残った金貨を再び、落ちていたところに戻すのだ。

「だれかの役にたつかもしれんしな!」

彼もまた、何の見返りも求めず誰かを助けられる心を持ったハリネズミだったのだ。そんな心を持っているからこそ、ハリネズミは冬支度に際し、いろんな人に助けてもらえたのかもしれない。

 

この物語は、そんな「困っている誰か」を当然のように助けられる人々を優しく描いている。
心穏やかになるタッチの絵とともに伝えられるこの物語は、人と人が助け合い生きていくことの大切さを真正面から伝えてくれる。

 

春になったら、彼は子グマにいろんな話を聞かせてやるのだろう。
約束を守ることもまた、人と人のつながりの中において、大切なことである。

 

心温まる物語と絵は疲れた心を癒してくれる

分かりやすくシンプルな文体で描かれた物語は、すっと心の中に溶けていくようだ。
暖かみのある絵は、見ているだけでも心が癒される。何より、主人公のハリネズミがとても愛らしく描かれている。

対象は低学年から中学年だろう。
おとなにもおすすめしたい一冊である。