あらすじ
怖い夢を見たこのみ。
怖い夢の続きを見るのが怖くて、なかなか眠れずにいると、誰かがトントンと窓をたたきました。
窓の外を見ると、たまごのようなおじさんが、バクに乗ってこのみを見ていました。
おじさんは、このみの怖い夢をバクに食べさせたいと言います。このみが了承すると、おじさんは願い事をかなえてくれるたまごをくれました。
そしてこのみはぐっすりと眠りました。
朝起きて、このみは早速、たまごに願い事をしました。
そして、大切に大切にあたためたのですが……。
不思議な不思議なお話
何ともいえない、不思議なお話である。
話の展開が、読めない。
メルヘンチックかといえば、そうではない。怖いかといえば、何となくその言葉はふさわしくないような気がする。何せ、怖い場面なんてひとつもないのだから。
奇妙……奇妙なのかもしれない。
突飛ともいえるようなお話の展開は、奇妙な夢を見ているようで、不思議な感覚に満ちている。
なぜ、たまごはあたためずに土に埋めるのか。
どうして木にたまごがなるのか。
いや、よく読めば、話自体はとてもかわいらしい話だ。
突飛ともいえる展開は想像の世界ではよくあることだし、感受性豊かな絵本では珍しくない。
それなのに、なぜ「奇妙」と感じるのか。
答えは、絵だ。
絵が、とても奇妙で、不思議で、空想的なのだ。
話の筋などぜんぜん似ていないのに、『不思議の国のアリス』を彷彿とさせる独特な雰囲気を醸し出している。
上記に「怖い」という単語がでてきたのは、絵の持つ雰囲気に呑まれたからだろう。
素直に言うなら、本書の絵は、どこか奇妙で、不気味で、怖い。それなのに、引きつけられる。
そしてとても、暗示的なのだ。
登場する女の子の頭にはたいてい、何かが生えているし、たまごには番号やアルファベットが振られている。
小さいものが大きく描かれていたり、極端に小さく描かれていたり、背景がゆがんでいたりする。
涙は雫となり、カップに降り注ぎ、それをボートに乗った誰かが傘で受けている。
この奇妙さには、作者の意図が込められているに違いないが、まず本を開くと、その構築された世界観に圧倒される。そして戸惑うだろう。
いや、戸惑うのはおとなだけかもしれない。
ここまで自由に、ここまで独特の雰囲気を醸し出した絵本はほかにあまりないだろう。
ハンプティダンプティに似たおじさんから受け取ったたまごから、木が生え、卵がなってそこから動物が孵り……
奇妙な話はまだ続くようだ。
独特な雰囲気を持つ一冊
お話自体も不思議で空想的だが、絵の持つ奇妙さが際だつ。
全体的に暗めの色使いなので、どことなく、不穏な雰囲気が漂う。
表紙の絵も奇妙なものになっているので、怖そうな印象を受けるが、お話自体は怖くはなく、想像豊かな不思議な話といった内容をしている。
絵のインパクトが強いので、怖いと感じる子どももいるだろう。
そういう意味では、人を選ぶ。
子どもよりおとなにうけそうな絵柄ではある。
個人的には寝る前に読むと夢に見そうなのであまりおすすめしないが……、読み聞かせもできる文章量。
低学年向けだろう。