あらすじ
中国で、三人のお坊さんが旅をしていた。
ある時、ある村にたどり着くが、村の人々は戦争や災害などで心が荒んでおり、お坊さんを出迎える人はいなかった。
お坊さんが戸をたたいても、村人は知らないふりをする。
そこで、一人のお坊さんが、「この村の人は幸せをしらない、だから今日は石からスープを作ることをおしえてあげよう」、と言った。
お坊さんは木の枝を集め、火をおこし、その火に井戸水を入れた小さい鍋を乗せて、スープを作り始めた。
それを見ていた勇気ある女の子が、お坊さんに「なにをしているのか」と尋ねた。
お坊さんは、「石のスープを作っている。そのためには三つのすべすべした石が必要だ」と答え……。
人と人のつながりの尊さを伝える、美しい絵本。
石からスープを作る
非常に寓話的な話だが、美しい絵のおかげか、不思議と鼻につかず、すらすらと読める。
戦争や災害で、人とのつながりが薄くなってしまったある村で、三人の僧侶が「石のスープ」を作り始める。
この村の人々は、幸せを知らない。だから、石からスープを作ることを教えてあげなければならない、という。
もちろん、石は石だ。石からスープを作れるはずもないが……。
心がすさみ、人間関係が希薄になってしまった村の様子は、現代社会を映しているようだ。しかし、僧侶たちが石のスープを作り始めたことで、村人たちの心の距離が縮まっていく。
そうだ。
人と人のつながりは、完全に死滅することはない。荒んで、薄れかかってはいても、まだそこにうっすらと残っているものだ。
そこへ、僧侶たちは「石のスープ」というきっかけを投じて、元からあった人々のつながりを復活させた。そして、できあがったスープを、皆で分けあい、楽しく時を過ごすことこそ、僧侶たちが言っていた「幸せ」なのだ。
人はまだ捨てたものではない。
毎日、悲惨なニュースが飛び交う現代でも、「石のスープ」というきっかけさえあれば、人は助け合い、思いやっていくことができるのだ。
本書は、「石のスープ」を作るということを通し、人々のつながりを取り戻すさまを見事に描いている。本書では中国が舞台のお話になっているが、訳者あとがきによれば、類話は世界各地で見られるという。「石のスープ」という寓話が現代まで残ったのは、いつの世も、人々の関係が希薄になっていることに心を痛める者が数多くいたからに違いない。
「昔は良かった」と懐古するのも結構だが、今が昔よりすべてが悪くなっているわけではない。悲惨なニュースの影に隠れがちだが、人の優しさや思いやりを報じるニュースもあるのだ。
今に生きる私たちは、「石のスープの幸せ」を後世に伝えていかなくてはならないのではないか。
中国が舞台の美しい絵本
水墨画風の絵はとても美しく、凛とした空気さえ漂っている。
寓話的なお話だが、「石のスープ」をどうやって作るのだろうというお話としての面白味もある。
話の趣旨も分かりやすい。
読み聞かせしやすい本だろう。
低学年向け。中学年にもいいかもしれない。
