絵本の森

『えんとつにのぼったふうちゃん』──煙突にのぼって、繊細な夢を見る少女

あらすじ

ふうちゃんはお父さんを亡くしてから、お母さんと二人で引っ越しました。
そのため、学校から家はずっと遠くなってしまいました。
だから、友達と遊びたいけど早めに帰らなくてはなりません。

ふうちゃんは、引っ越した先の町があまり好きではありませんでした。
工場で働いているお母さんは、最近、残業が続きです。ふうちゃん一人でご飯を食べる日が続いていました。

今日も、お母さんは残業でした。

ふうちゃんは、犬のチビと一緒に、この間見つけたガラス工場跡地に遊びに行くことにしました。
塀の穴から中に入ると、そこには古い煙突が一本立っていたのです……。

 

喪失をテーマにした、優しい絵本

これはおとなが読むのと、子どもが読むのとでは抱く感想が変わってくるだろう。

暖かみのある絵柄からイメージされるとおりに、内容もどことなく、古きよき昭和のにおいがする。

お父さんが亡くなって、お母さんと二人だけの家族になってしまったふうちゃん。
引っ越しした先の町はまだ好きになれない。学校から自宅が遠くなってしまったせいで、友達とも遅くまで遊んでいられない。

何より、お母さんの残業が多くなって、家に帰ってもいないことが多くなってしまった。

ガラス工場跡地に立っていた煙突に登り始めるのは、逆に彼女の心の奥底に降りていくような感覚にとらわれる。
煙突の頂上でみた景色は、ふうちゃんが好きじゃないなと感じていた町とは違って、美しい夕焼けの景色。

このページが本当に美しい。
でも、なぜか少し寂しい。

寂しい気持ちは、いなくなってしまったお父さんの記憶を呼び覚ます。夕焼けの景色は去年お父さんと行ったくり山の風景に変わり、お父さんと栗をとり、それから景色は海になって、お父さんの手のひらを頬に感じながら、カモメを見つけて……。

振り返ると、お父さんがいない。
ふうちゃんは海の中にもぐって、お父さんを探す。
「うみの なかは ふかくて くらくて なにも みえません」という状況は、彼女の抱えていた喪失感を示すようだ。

海の底で、貝が光りながら近づいてくる。
それはふうちゃんを探していたおじさんのライトだったわけだけど、貝の光は、これから寂しさと折り合いをつけて生きていこうとする力の光のようにも思える。

ふうちゃんを抱きしめるお母さんの目が、貝の光のようにきらきら光っていたとしたなら、お母さんもまた、寂しさと折り合いをつけて生きていこうと決心しているのだろう。

不思議な夢を見させてくれた煙突は倒されてしまってもうないけれど、ふうちゃんはもう大丈夫。
そう言ってくれているような終わり方に、じんわりと胸に広がるものがある。

それが喪失から一歩前に進もうとしているふうちゃんの心を思っての感情の振幅を、感動というのか、安堵というのかで、おとなと子どもに別れそうな気がする。

作中で、ふうちゃんはお父さんが亡くなってしまったことに対して、悲しい・寂しいなどという表現はしない。ただ、夢の中で、「おとうさん、おじいちゃんの うちに いくんでしょう。」と言及するだけだ。
これがとても暗喩的で、彼女自身も自分の心に空いた穴を自覚しきっていないように見える。何とも言えない気持ちになる。彼女の心に空いた穴の大きさを思うと。

この絵本は、喪失とそこから歩み出す様をテーマにした、とても繊細な作品だと思う。

 

暖かみのある絵と、分かりやすい文章

話と絵がうまく合わさっていて、深みがある。
特に夕焼けのページ、くり山のページなど美しく感じた。

ただ、本文に使用している紙が特殊紙で、厚みがあり、つるつるとしていて手を切りそうだ。そこは注意点だろうか。

読み聞かせに向いている本だろう。
繊細なテーマなので、低学年向けだと思われる。