あらすじ
森の奥には、「かめんやさん」があります。
「かめんやさん」には、いろんな仮面がおいてありました。
「かめんやさん」には、いろんな事情を抱えた動物のお客さんがやってきます。「かめんやさん」の店主は、お客さんの望む仮面を選んであげます。
ライオンの仮面、銀色の毛並みのきつねの仮面、羊の仮面……
ある雷の夜、「かめんやさん」にやってきたおおかみは……。
今日も仮面屋には客が……
仮面、と聞くと、何かのメタファーか、とか何とか、難しいことを考えてしまう。それだけ、仮面という言葉には、いろいろな意味が詰まっているのだろう。
この『かめんやさん』も、仮面にいろいろな意味を持たせている。
『かめんやさん』というからには、仮面を売る店が登場する。店主は仮面をかぶっている。正体不明だ。
仮面屋に訪れる客は、いろんな事情を抱えており、そのために仮面を欲しているのだ。
見た目が地味だから、かわいらしいお面をつけたいというさぎ。
いじめっこたちを脅かすために、ライオンの仮面をつけたねずみ。
赤ちゃんが自分の顔を怖がるから、といって羊の仮面をつけるお父さんぐま……。
くまは、羊の仮面で赤ちゃんに怖がられずに済むようになったが、赤ちゃんは羊がお父さんだと思ってしまい、仮面をはずすと前よりも怖がるようになってしまったといって、仮面を返しにくる。
その際に仮面屋の言った言葉が地味に怖い。
「かめんを つけつづければ よろしいのでは」
人には内面と外面があり、誰もがみな仮面をつけている。すべてをさらけ出したままで生きている人はほとんどいないだろう。
銀色の毛並みのきつねと結婚したとばかり思っていた男のきつねは、その銀色の毛並みのきつねが仮面だったと知り、仮面屋に怒鳴りこんでくる。
なんだかそれは、外面が気に入ったから結婚した、と言っているのも同然だ。
結局、きつねの男は仮面をつけていたきつねを許し、帰っていくが、それはうまくことが丸く収まったケースではないだろうか。まあ、その後、そのきつね夫婦がどうなったのかは知らないが……。
仮面というものは、不思議でどこか恐ろしい。
かぶってしまえば、どんな表情をしているかわからなくなる。何者かわからなくなる。悲しんでいるふりをして舌を出すこともできるし、自分の力量以上に迫力のある風を装える。
しかし、仮面を何枚も何枚もつけていると、だんだん、自分がどう思っているのか、どんな顔をしているのかわからなくなってくるのも事実だ。ありのままに、というのは結構難しいことだが、何十もかぶった仮面はだんだん苦しくなってくる。
「仮面をつけつづければいい」という言葉が恐ろしく感じるのは、自分が自分を見失ってしまうこともつながるから、恐ろしく感じるのだろう。
仮面屋に世話になった客は、みな、結局、仮面の力に頼らずに、仮面を脱いで外に出ていく。
そうすることによって、自分を必要以上に偽らずに生きていくのだ。
……そこで少し考えてほしい。
ずっと仮面を付け続けている店主……。
彼が隠している素顔は……?
今日も仮面屋は仮面を売り続けている。
この世には、自分を偽らなければならない者は絶えない。
宣伝をしなくても、客はあっちのほうからやってくる。
ひっそりと、静かに、今日も店主は仮面をつけて、仮面を売り続けている……。
不気味な読後感を残す、何とも言えない一冊
何より不気味なのは、表紙の仮面屋。
ともすれば、怖いと感じる人も多いだろう。
イラストの不気味な雰囲気のためか、話もどことなく暗く、不気味な余韻を残す。
話の内容も額面通りに受けとれば、至って不可解なところのない話なのだが、絵の不気味さと相まって、つかみ所のない、何とも居心地の悪いものに感じられる。
結末は衝撃的で、何ともいえない不気味な読後感が残る。
これはダークファンタジーと言ってもいいだろう。
低学年から中学年が対象だが、不気味な雰囲気たっぷりのこの本、万人に勧められるかどうか……。
読み聞かせはできなくはないが、寝る前に読むと悪夢を見そうなので、あまりおすすめはしない……。