あらすじ
「これは すいへいせんの むこうから ながれてきた いえ」から始まる、言葉遊びの絵本。
次々と積み重ねられていく文章が、どんどん世界を広げていく。
広がった世界は、最後に……
「これはすいへいせん」から始まる言葉の連鎖
こういう、不思議なループものの絵本は大好きだ。
物語としては全然整合性がとれてなくて困惑の極みなのだけど、読んでいると日本語の持つ不思議さが何となく伝わってくる。
何となく、としか説明できない自分が日本語に不自由なのだなあと切なく思うけど、日本語は後から後からくっつけていける、ちょっと後出しじゃんけん的で(ほめ言葉)、いろいろと改造し放題の言語だと思っている。
この本は、そういう、日本語のおもしろいところをクローズアップしたかのような内容になっている。
まず本のタイトルが本文になっていて、軽いジャブをもらったような気分になる。
ページを繰るごとに、文章がくっついていく。まともなくっつき方をしたなあと思うものもあれば、なんかひねくれたくっつき方をする文章もあって、おもしろくて衝撃を受ける。
「これは すいへいせんの むこうから ながれてきた いえで」
「ひるねをしていた おじいさんの ガブリエルが」
「いつも みている だいじな えほんの」
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……という感じで、文章が次々とくっついていくのである。
本当に不思議でおもしろい。
文章がくっつくごとに、画面も対象に向かってズームしていく。
この話はすいへいせんのむこうからながれてきた家で昼寝をしているおじいさんが読んでいる本の中の話のはずなのだけども、読んでいるうちにだんだん話が広がっていって、そのうち、膨大に膨れ上がった文章は訳が分からなくなってバラバラに崩れ落ちそうになってしまう。
全体を把握しようとすれば、とたんにそれが複雑な構造を持った話だということに気がついてしまうのだ。
だから、これは物語のようであって物語でない、気まぐれな言葉遊びのひとつなのかもしれないし、人やものは無関係に見えて実はつながっている、といった暗喩かもしれない。
くっつき続けた文章が膨れ上がって、もう限界だ、と思った瞬間に、見知ったじいさんと見知った家が登場するのが最高におもしろい。そう、これは最初に水平線を流れてきた家と、その中で昼寝をしていたガブリエルさんじゃないか!
ノックアウトだ。
知らないうちに螺旋を描いてきた文章が、最後のページできれいなわっかになったかのような感覚である。
私はなぜだか、こういうとき、パズルのピースがはまったかのような気持ちよさを覚える。ミステリー小説の謎が解けたときのあの気持ちよさだ。
だからループする話や物語は大好きなのである。
ついでにそこに、「不思議」や「奇妙」の要素があると最高だ。
『これはすいへいせん』は、日本語の持つ不思議さや無限の広がりを表した、おもしろくて不思議な絵本だ。
日本語の奇妙さに一度触れてみると、不思議な感覚を味わえるだろう。
文章が積み重なっていく言葉遊びの面白味
対象は幼児~低学年向けだろう。
文章が積み重なっていって、どんどん広がっていく世界を単純に楽しむ絵本だ。
文章が描く世界には物語性はあまりなく、年齢があがるにつれ、この本の評価が変わるように思える。
読み聞かせをするには、幼児~低学年まで。ただ興味を示す子と示さない子がはっきりと分かれそうだ。