絵本の森

『30000このすいか』──逃げ出したすいかは

あらすじ

山に囲まれた広い畑に、30000このすいかがまるまると育っていました。

ある日、二羽のカラスが話していました。
すいかがおいしそうになっているから、明日にでも市場につれて行かれて売られて食べられてしまうだろう、と。

それを聞いたすいかは大変ショックを受けました。
そしてすいかたちは決心します。

食べられる前に、みんなで逃げようぜ!

そうして、暗くなるのを待って、すいかたちは畑から逃げ出したのです……。

 

展開がなんかすごい

いやあ……これは……
これは……なんというか……。
「すごい」という言葉しか出てこないというか……本当に、すごい。
こういう発想、どこから出てくるのだろう……。

ついつい、「なんで?」「どうしてそうなるの?」「そうなった理由は?」とか考えてしまう、良くも悪くも凡人の自分には、とてつもない発想のものに出会うと、「なんかしらんがすごい」としか言えなくなってしまう。
そういった意味では、自分は噛んだ後のガムみたいに味も素っ気もなくなってしまったのだなあとうっすら寂しい気持ちになる。

この『30000このすいか』、すいかの勢いがすごい。なんたって、30000こもある。ちょっとやそっとの数じゃない。
この30000このすいかが食べられたくなくて、畑を逃げ出す。そこまでは「なるほど……」と理解できる。

30000こがごろごろころがるさまは壮大な景色だ。
しかし30000こ、いったい、どこに逃げるというのだ? そんな数のすいかが逃げる場所などあるのだろうか。
いやいや何とかして、彼らはきっと安住の地を見つけるに違いない……と思ったのが凡人の発想。

すいかたちには意志があって、峠の上からしずみゆく太陽を見て、太陽についていこうと思いつく。そして、彼らは一気に峠を転がりゆく。
もちろん、すいかだから割れる。
ぱかんぱかん割れていく。30000こが。
この場面の絵が怖い! すごく怖いよ! ホラーだ!

割れてしまったからには、彼らはもう……。

……と思っていたら、彼らは赤い液体になっても意志があるのでした。30000このすいかはここで集合体になり、赤い池になった……

……と思ったら、それは大きな唇だった!
うわーん絵面が怖いし意味がちょっとわからないしこれ書いてても意味がわからないよ!
さらには……

その大きな唇からにょっきり二本の足が生え、唇は二足歩行を始めるのであった……!
ひいいいいい……怖いほうに進化した!

そうして唇二足歩行の元30000このすいかは、太陽を追いかけ、海に沈んでいくのですが、次のページではすいか行方不明事件に気づいた人たちが大騒ぎ。

そして最後のページでは、この日のおひさまがなんだかおいしそうに見えませんか、と締めくくられている……ということは、30000こは……。
話がすごいところに着地した……。

とにかくもう、発想の大爆発。
自由奔放で型破りな展開が、いろんなものを押し退けて、「おもしろい」をつれてくる。
唇の化け物になったときは、正直ホラーを感じましたが、この発想はすごい。やたら謎のパワーがあって、謎の勢いがある。

おとなは「なんで?」だけど、子どもは「おもしれー」ってなりそうな一冊。
この差が、なにやらうすら寂しい差に思えてならない。

 

 

でもやっぱり、唇からにょろっと舌が出てきたのは衝撃だよ……。

 

どちらかというと夏の絵本

内容的に、夏の絵本でしょう。
勢いのある絵は個性的で豪快。内容もまた、勢いがあり豪快。
予測のつかないお話は、読み聞かせ受けするでしょう。

幼児、低学年向け。