あらすじ
何年も前のこと、大きな港町に、知りたがりの小さなネズミがいた。
そのネズミは図書館に通っては、人間の本を読みふけっていた。
ある日、ネズミが図書館から家に帰ると、仲間のネズミがみな、いなくなっていた。
ネズミにとって住みにくくなったこの町を、仲間たちは旅だって、どこか違うところ──ニューヨークに移住してしまったに違いない。
ネズミは仲間たちを追いかけて、ニューヨークに行こうと船に乗り込もうとしたが、港には猫がいて、船に近寄ることもできない。
船で行けないなら、どうすれば……?
そのとき、ネズミは空を飛ぶコウモリを見た。
そうだ、空を飛んで行こう!
ネズミはそう決意したのだった。
小さなネズミの奮闘を緻密な筆で描く
絵本サイズでありながら、ずっしりと重い本書。ページ数も多いが、表紙のイラストやデザインが児童向けのそれから一歩、大人びたほうへ進んでいるように思える。
傷んだ古い革の手帳風のダメージ効果が描かれ、端が擦り切れているように見える。
古びた紙質のページには、茶色いシミが点々と浮き出ている。
雰囲気満点のこの一冊のページをひとたびめくれば、かわいらしいネズミが描かれているのが目に入る。水彩風の色の付け方をした、写実的表現とキャラクター的表現がうまく融合した絵柄だ。
この本のすべての絵は、緻密で繊細で、またダイナミックでとてもすばらしい。作者のこだわりと愛情が伝わってくるかのようだ。
主人公のネズミには表情らしい表情はない。だが、その仕草で喜怒哀楽が伝わってくる。小さいネズミをフォーカスすることで、背景にも迫力が出ている。
細かく書き込まれたイラストが゛次々と続くと、古い映画を見ているような気分になる。
圧倒的な一冊だ。
これはすごい絵本を手に取った、と思った。
ネズミは、よんどころない事情で、空を飛ぶことを目指すことになる。
その努力、努力、努力……トライ&エラー。たった一匹で、黙々と努力を続けるその姿は、愛らしいというより、けなげだ。手助けするものもいなければ、声援を飛ばす仲間も彼にはいないのだ。
あきらめず努力し続ける姿は、言いようもなく、高潔で立派だ。
彼のそのたゆまぬ努力が、のちの偉業を成し遂げることになるのだが、さもあらんと言ったところだろう。
待ち受ける困難、失敗。
彼はくじけない。
飛ぶのだ。飛んで、ニューヨークを目指すのだ。
彼の固い意志が伝わってくる。小さなネズミの体の中に、これほどの強い意志が宿っていようとは、彼がついに空を飛ぶまで、誰もが見逃していたことだろう。
なにより、このネズミが格好いいのだ。
羽を背負ってすっくと立つその姿はりりしささえ感じられる。
これが、自分の信じる道をちらとも疑わない者の輝きだ。
「空を飛ぶ」ということに人間は夢をみた。
今も夢を持つ人々がいる。引きつけられてやまない人たちがいる。
本書の作者もまた、「空を飛ぶ」ということに魅せられた一人なのだろう。ページの端々から、それが伝わってくる。それがまた好ましく、物語やイラストに深みを与えている。
話のラスト、ネズミの偉業が人間の夢につながっていくところは、静かな感動を覚えた。小さなネズミが達成したことを、人間が再び。
リンドバーグ、そう、この名前を聞けば誰もが思い出す偉人。
その名をタイトルに持ってきた作者の思いを、私は読後、はっきりと受け取った思いだった。
「空を飛ぶ」という歴史に魅せられた人は少なくない。
対象年齢は高め
絵は多いが、写実的でリアル。文章を見ても、本書は高学年からか、中学生からが対象だろう。むしろ、内容の重厚さに、おとな向けといってもいいかもしれない。
飛行機が好きな人や、飛行機の歴史が好きな人には、たまらない一冊だろう。
読み聞かせには不向き。繊細でリアルな絵を楽しみながら、鑑賞するような本だろう。