あらすじ
ある夜、コウモリたちにうれしい知らせが届いた。
「こんやは まどが あいてるよ!」
それは、図書館の窓が開いているという意味だった。
コウモリたちはいそいそと、図書館へ。
この前来たのは一年前だったので、うれしくて仕方なかったのです。
さあ、図書館で本を読もう!
物語のすばらしさを伝える絵本
コウモリをまじまじと見る機会はあまりないんですけど、わりとかわいい姿をしていますよね、コウモリって。
……なんてことを思い出させるのはこの一冊、『コウモリ としょかんへいく』。
表紙を見ただけで、本文でいかにかわいらしくコウモリが描かれているのか一目瞭然。コウモリと図書館が好きな人はマストでしょう。
本の中では、想像したとおり、目の生き生きとしたコウモリたちが綿密なタッチで細かく描かれていました。
夜の空を飛び回るコウモリたち。
「こんやは まどが あいてるよ!」
うれしそうに一匹のコウモリが告げます。
それを聞いたほかのコウモリたちは浮き足立ちます。そわそわわくわくとしはじめました。
窓が開いている?
何のこと?
「こんやは みんなで としょかんへ いこう!」
なるほど、図書館の窓が開いているのですね。
コウモリたちはこぞって、図書館へ。
この前来たのは一年前というのだから、それはもう、図書館好きならこの日を逃す手はないでしょう。
しかし何が楽しいのかわからないのが、図書館に始めてきた小さな子どもたち。
図書館の設備で遊び始めます。いたずらしたり、おもちゃにしたり。
細かく描かれたコウモリの子どもたちが本当に生き生きしています。……図書館で生き生き遊び回っていたら、本当はだめなんですけどね。
やっぱり注意されてしまった子どもたち。
おとながお話会を開いてくれました。
机かソファの裏側に逆さまにぶら下がって、並んで本を見るコウモリたちがかわいい。読み聞かせ役のおとなのコウモリは朗々とした声で読み聞かせてくれているようです。
読み聞かせのため開いた本が逆さにおかれているのはなぜかと思ったら、みんなぶら下がって逆さで見ているからなんですね。本当に細かく描かれていて見ているだけでも楽しくなってきます。
表紙の見返しに、「絵の中にひそんでいる名作を、いくつ見つけられるかな?」と書かれているのですが、なるほど、読み聞かせに使われている本に描かれたイラストを見ると、これは……「長靴をはいた猫」かな?
読み聞かせによって、物語に引き込まれていくコウモリたち。
一気に紙面がにぎやかに、華やかに、遊び心も満載になっていきます。いろんな童話のパロディが次々と描かれています。
うーん、わかるものもあればわからないものもあるなぁ。
「オズの魔法使い」や「アラジンのランプ」などなど……おそらく有名な童話なんだろうけれど、元ネタのわからないものも結構あって、答えあわせしたい気分。
おもしろいのは、元ネタにあわせて、画風を変えているところ。「不思議の国のアリス」の挿し絵などは、見覚えのある人も多いのでは。こういう遊び心のある絵本は本当にすてきですね。紙面の隅々から、愛情が伝わってくるようです。
ここまで細部を細かく描かれていると、自然と一ページ一ページを眺める時間も長くなります。
描かれたパロディが次から次へと描かれているさまは、まるで絵巻物のよう。迫力があります。
こうして眺めていると、人の築いた物語の歴史はすごいなあと感じいります。人を引きつけてやまない物語がこんなにもあるなんて!
丁寧に描かれたイラストは、作者の先達の名作たちに対するリスペクトが強く感じられます。
それにしても……
こういうのは説明が蛇足とは思うけど……
ネタあかしのページはついていないのかな……? ついていないよなあ……。
パロディの元ネタがわかればもっと楽しい絵本
ふつうに読んでも十分にすてきな絵本ですが、名作童話をよくご存じのかたなら、さらに楽しく読むことができるでしょう。元ネタがわかったとき、思わず、にやりとします。この部分は、おとなのほうが楽しめる部分でしょう。
ダイナミックな構図と、丁寧に書き込まれた絵柄で紙面を魅せます。本当にすばらしい。
話の内容自体は、幼児、低学年向け。どちらかというと絵がメインの絵本なので、文章は少ないです。
「本ってすてき」「図書館ってすてきなところ」とテーマをシンプルに絞っています。逆に言えば、本当にその二つで内容が説明できるほどなので、物語性としてはここは好みが分かれるところ。
読み聞かせに向くかというと、聞き手の層にだいぶ左右されるでしょう。図書館や本に興味を示さない子の反応は今一つかも。
しかしながら、コウモリがとんでもなくかわいいので、これは一度見てほしい。
夕方頃飛んでいるコウモリに思わず視線を向けたくなるはず。