あらすじ
ある朝、スタンレーは自分の部屋の壁に掛けていた掲示板がベッドに落ちてきて、ぺちゃんこになっていた。
ぺちゃんこになっていたが、怪我もなく、痛みもない。そればかりか自由に動くこともできた。
スタンレーはぺちゃんこになった自分の体を生かして、人助けをしたり、それなりに楽しんだりしていた。
あるとき、美術館に泥棒が入って困っている館長に、スタンレーは自分のぺちゃんこの体を生かせば泥棒を捕まえられるかもしれないと言い……。
ある朝、スタンレーがぺちゃんこになった!
トンデモな事件から始まる、コメディタッチのお話。
トンデモ、というのは主人公のスタンレーがひょんな事故からぺっちゃんこになってしまった、というもの。
ぺっちゃんこになった、というと死んだかのように聞こえるが、そうではなく、体の厚みを失ったまま生きているという、まるで漫画のような状態のである。その体の厚さ、1.3センチとのこと。
しかし、スタンレーがぺちゃんこになったことが発覚した朝の、家族のリアクションがわりかし薄くて軽い。
なんといってもユーモア小説なのだから、深刻に受け取っても仕方ないのだろうが、お父さんはスタンレーを見て「まるでパンケーキ」、お母さんは「とりあえず朝ごはんを食べて医者につれていこう」、弟にいたっては「すごいことになった」。
お母さん、ご飯を優先させている場合ではないのでは……。
まあ、命に別状はないのが暗黙の了解。
お医者さんは結局治し方がわからず、スタンレーはぺちゃんこのままで生活することに。
両親は困った困ったと口にしながら、心の中ではぺちゃんこのスタンレーを少し自慢に思っていたのだとか。なぜ……。
スタンレーは、ぺちゃんこになったことを悩む……わけでもなく、ぺちゃんこライフをめいっぱい謳歌。
ぺちゃんこだと便利なことを見つけては、人の役に立ったりして、わりと楽しくやっているようだ。
弟はそんな兄をうらやましがって、自分もぺちゃんこになりたいとわがままを言い出す始末である。この家族、実に楽天的である。
ノリが本当に短編カートゥーンアニメそのままで、別の意味で安心して読んでいける。ネズミを追いかけ回して、いつもこてんぱんにやり返される猫のアニメでも、絶対猫は死なないというあの安心感である。
細かいところをツッコミはじめるとキリがないので、これはこういう世界観なのだと割り切ることが先決である。
本書の内容の大半は、ぺちゃんこになったスタンレーが、そのぺちゃんこを生かして、排水溝に落ちてしまったお母さんの指輪を排水溝に降りて取りに行ったり、飛行機代をケチり封筒で友達の家まで旅行に行ったり、凧になって空をすいすいと飛んだり……と、ユーモアのあるエピソードが続く。
現実的に考えると……
……おとなの発想はやめておこう。
個人的にかわいらしく思ったのが、兄のようにぺちゃんこになりたいと願った弟が、百科事典を何冊も自分の体の上に置くところ。
あんなにぺちゃんこを楽しまれたら、自分もぺちゃんこになりたいと思っても仕方がない。しかも、両親は自慢に思っているのだ。おもしろくない気持ちもよくわかる。
本書で一番盛り上がるのは、美術館の絵泥棒を捕まえる話だろう。ぺちゃんこと絵、で何となくオチは想像できるが、本当にそのままであった。この予定調和、嫌いじゃない。
かくして、泥棒を見事捕まえるのに成功したスタンレー、一躍有名人に。
もう元に戻ろうという努力もあまりしていないようだし、ぺちゃんこなりに人生がうまく行っているので、ぺちゃんこのままでいいんじゃないだろうか……と思い始めていたら、話は急展開を見せる。
ぺちゃんこということを理由に、からかわれたり、ひどいことを言われたりするようになったのだ。
それまでの軽いノリはどこへいったのか、と思えるほどにスタンレーは落ち込む。
あれほど調子に乗っ……元気にぺちゃんこライフを謳歌していたのに。
正直、この終盤に至るまでの話は、明るくユーモアにあふれるエピソードが多かったために、終盤の突然の転換には戸惑った。
調子に乗りすぎたスタンレーを、周りがうっとうしく思い始めたのでは……などと、よけいな推測をしてしまう。
たぶん、そろそろ話をしめたいので幕を下ろしにかかったのだろうということなのだろうが、そう思うとどうも失速感が否めない。
落ち込んでいるスタンレーを助けてくれたのは、なんと弟。スタンレーをうらやましがって、ちょっとぎくしゃくしていた兄弟仲が元通りになったところは、男兄弟らしさが表現されていてとてもよかった。女兄弟だとこうはいかないだろうし、どちらかが女の子でもこうはならなかっただろう。言葉すくなくとも兄弟の絆が感じられる、ほほえましくも格好いいシーンだった。
元に戻す方法があっさりしすぎな気もするが、『ぺちゃんこスタンレー』らしい戻し方ではあった。ただもう少し、ユーモアあふれる小説として、おもしろい試行錯誤があってもよかったのではないか、とは思う。駆け足感がすごい。
終盤まではおもしろかっただけに、これだけは残念だった。
そして、やっぱり両親のノリは軽いのであった……。
(途中、お母さんはすてきなことを言うけど)
大半がコメディ小説
話の大半がコメディ小説である。
話のすべては、スタンレーがぺちゃんこになった、という点につきるので、前提をすんなり受け入れられたら、楽しめる。
難しい話はなく、なるほどぺちゃんこだとそういうこともできるね!といった話を中心に、泥棒を捕まえる場面などハラハラする場面もあって楽しく読むことができる。
最後は明るく、ハッピーエンド。
対象は小学校中学年向け。